衆院選は27日投開票され、自民、公明両党の与党が過半数を割ることが確実となった。自民派閥裏金事件による政治不信が政権を直撃し、「政権交代こそ最大の政治改革」と訴えた立憲民主党と国民民主党が大きく議席を伸ばした。
自民が比較第1党に踏みとどまり、公明に野党の一部を加えて連立政権を維持したとしても、石破茂首相の求心力低下は避けられない。一方、立民を中心とする非自民連立政権の樹立は、不調に終わった選挙協力以上に難航が予想される。自民が政権復帰した2012年衆院選から長く続いた「1強多弱」の構図は様変わりし、政治の不安定さはいや応なく増す。
それでも有権者は、政治の現状に「ノー」を突きつけ、出直しを迫った。示された民意を直視し、信頼をどう取り戻すかは政治に課せられた最大の責務である。国民の審判を力に、政治を根本的にリセットしなければならない。
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石破首相の就任から26日後の投開票という戦後最短の日程で実施された衆院選は、「政治とカネ」一色となった。
首相は、自民党総裁として裏金事件に関係した議員らを非公認とするなど「厳しい対応」をアピールしたが、党内基盤の弱さもあって実態解明には後ろ向きだ。有権者に考える時間を与えないまま選挙戦に突入したことで、政権への不信感は一層高まった。
終盤には、非公認とした候補が代表を務める党支部に対し、公認候補の支部と同額の2千万円の活動費を党本部が支給していたことも明らかになった。有権者への裏切りと捉えられても仕方がない。
与党から石破首相の責任を問う声が上がるのは当然だろう。だが、抜本的な政治改革に取り組まないまま退陣した岸田文雄前首相、そして派閥ぐるみの裏金づくりの横行を許した旧安倍派幹部たちの責任はさらに大きい。
数とカネの力で強権的な政権運営を重ね、政治腐敗を招いた自民1強のおごりを厳しく戒める選挙結果と受け止めるべきだ。
兵庫県内でも、自民は苦戦を強いられ、立民が小選挙区で健闘した。日本維新の会は21年の前回選ほどの勢いはみられない。
選挙中のアンケートなどで政治資金規正法の再改正が必要と答えた候補者は自民を含めて多数を占めた。使途公開の義務がない政策活動費の廃止や企業・団体献金の見直しなど、公明や野党各党が一致する点は多い。選挙後の国会で裏金事件の真相解明と再発防止策に本気で取り組むことが信頼回復の第一歩となる。
■有権者の熱量低く
衝撃の結果とは裏腹に、有権者の熱量は低いままだった。全国の小選挙区投票率は前回の55・93%を下回る可能性がある。
守勢に回った与党は、立民の前身である民主党政権を「悪夢」とやり玉に挙げ、立民と非難の応酬を繰り広げた。ただでさえ短い選挙期間で、憲法問題、外交と安全保障、エネルギー政策といった国のかたちを問う論戦や、経済や社会保障、教育など身近な政策論争は深まりようがなかった。社会の分断や法制度の機能不全を放置する政治と、有権者の距離は広がるばかりではないか。
教員不足などによる学校の余裕のなさは子どもたちの心身に影を落とし、いじめや自殺は増えている。奨学金の返済が長く若者にのしかかり、未婚化や少子化の一因ともなっている。女性や高齢者をはじめ非正規雇用に就く層は正規雇用との格差から抜け出せず、物価高騰の影響をもろに受ける。
各党はこぞって教育への公的投資拡大、賃上げ、少子化対策や社会保障の拡充を掲げた。これを選挙向けのアピールに終わらせてはならない。国民負担の在り方を含めて財源確保策を議論し、セーフティーネットの強化を急ぐ必要がある。地震と豪雨災害に見舞われた能登半島の被災者支援は最優先だ。選挙後の国会はまずそこに目を向けてほしい。
■多様な政策可能に
「1強」はもう存在しない。政党同士が譲り合わなければ動かない政治状況は、熟議を通じて新たな政策実現が可能な環境とも言える。長く棚上げされてきた選択的夫婦別姓制度の導入や、核兵器禁止条約への参加など、多くの政党が公約した政策の前進につなげるべきだ。若い世代の関心が高い地球温暖化対策や、政治分野のジェンダー平等にも党派を超えて踏み込んだ対応が求められる。
多様な価値観を持つ人々の合意を形成し、その命と尊厳を守るために政治はある。国民の負託を受けた一人一人が「信頼される政治」の再生に取り組むときである。