パレスチナ自治区ガザでの停戦にイスラエルとイスラム組織ハマスが合意した。第1段階は6週間で、ハマスは人質33人を解放する。戦闘は15カ月に及び、人口の9割が家を追われ死者は4万6千人を超えた。食料や医療の提供体制も欠乏し、乳児の餓死や凍死も相次いだ。人道危機を一刻も早く食い止め、恒久和平につなげなければならない。
合意発表後もイスラエルは攻撃を続け、交渉が決裂すれば戦闘を再開する可能性を示唆している。これ以上住民や人質の犠牲を増やすのは許されない。双方が歩み寄り、合意の完全履行を目指してもらいたい。
イスラエルは住民の救援に当たる国連関係者らへの攻撃を繰り返し、昨年10月には国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の活動を禁じる法を成立させた。国際社会に背を向ける振る舞いをやめ、人道危機の解消を急ぐべきだ。
合意を仲介したカタールなどによると、6週間の停戦中、ハマスは約100人とされる人質のうち女性や高齢者ら33人を解放、イスラエルはパレスチナ人数百人を釈放する。イスラエル軍は人口密集地から撤収し全域で住民の帰還が可能になる。
難関は第2段階だ。恒久的な停戦と人質全員の解放を目指すが、ハマス排除を掲げるイスラエルのネタニヤフ首相は軍の完全撤退には応じない姿勢を見せてきた。民間人の被害を顧慮しない掃討作戦が各国の信頼を著しく損ねていることを自覚する必要がある。
合意を「抵抗の成果」と強調するハマスも、政権維持の正当性が揺らいでいる。イスラエルへの奇襲攻撃で戦闘のきっかけをつくり、住民を窮状に陥れた責任は重い。国際社会の協力を得て選挙で民意を問うなど、ガザ統治の在り方を見つめ直すことが不可欠と言える。
合意を巡っては、20日に就任するトランプ次期米大統領による早期停戦の圧力が奏功したとされる。ハマスを支援してきたイランや周辺国のイスラム武装組織がイスラエルとの戦闘で力をそがれたことも、状況を有利にしたことは否めない。
しかし、米国にとっても今後の中東政策は容易ではない。イスラエル寄りの姿勢に徹し、国際法に反するパレスチナ自治区の占領や入植を黙認し続ければ、憎悪の連鎖を増幅しかねない。国際協調の下、イスラエルとパレスチナの2国の共存に向けて力を尽くすのが、超大国としての責務である。
日本政府の役割も問われる。イスラエルとイスラム諸国の双方と友好関係を築いてきた外交方針を最大限に生かし、和平の維持とガザの復興に力を尽くすよう求める。