健康への影響が懸念され、各国で規制が進む有機フッ素化合物(PFAS)が岡山県吉備中央町の浄水場から高濃度で検出された問題で、同町が住民を対象にした血液検査の結果を公表した。PFASの一種PFOAが1ミリリットル当たり平均135・6ナノグラム(ナノは10億分の1)で、最も高い人は718・8ナノグラムだった。

 日本では血中濃度の基準が定められていないが、米国の学術機関は、PFAS7種類の合計が1ミリリットル当たり20ナノグラム以上で健康上のリスクが増すとする。今回は1種類のみの平均で米指針値の約7倍、最高値では約36倍である。極めて高い値であり、深刻な結果と言わざるを得ない。

 PFASの血中濃度については、河川や地下水の汚染が判明した地域の住民らが独自に検査する動きが各地に広がる。明石市では33人の約半数が米指針値を上回った。過去にPFOAを扱っていた大阪府摂津市の工場元従業員や周辺住民約1200人の検査では、約3割が米指針値を超え、約30倍の人もいた。

 吉備中央町は住民の強い要望に応じて、全国で初めて公費で血液検査を行った。709人が希望した。追加の検査も実施するほか、長期的な健康調査も進める。不安を抱く住民への妥当な対応である。

 PFASは水や油をはじく特性を持ち、生活用品などに幅広く使われてきた。PFOAについては世界保健機関(WHO)傘下の研究機関が「発がん性がある」と分類する。国民の健康状況の把握は急を要する。

 環境省は「血中濃度だけで健康影響は把握できない」として汚染地域での血液検査には後ろ向きだ。しかし研究者はデータの蓄積が重要と指摘する。未解明だから調べないのではなく、知見が足りないからこそ国の責任で検査を拡大すべきだ。公的な検査の主体が自治体になるなら、国による財政支援は欠かせない。

 一方、国が昨年11月に発表した水道水調査では、2024年度に国の暫定目標値(PFOAなど2種類の合計が1リットル当たり50ナノグラム)を超えた水道事業はなかったが、その後、熊本県内で目標値の約2倍が検出された。20~23年度では兵庫を含む12都府県14事業で目標値を上回った。

 現在PFASに関する水質改善は努力義務だが、国は水道法上の「水質基準」の対象にして、検査と改善を自治体などに義務付ける方針を示す。基準値は暫定目標値と同じ1リットル当たり50ナノグラムにする意向という。

 米国はPFOAなど2種類の規制値をそれぞれ同4ナノグラムと定める。ドイツもPFAS4種類の合計で同20ナノグラムとする方向だ。日本の基準値案が妥当かどうか、最新の研究を踏まえて厳密に検討する必要がある。