公立、私立を問わず、高校の授業料が所得制限なしに無償化されることになった。
高校進学率は今や99%近くに上る。家庭の経済事情や住んでいる地域にかかわらず、進路の選択肢が広がるのであれば評価できる。東京都と大阪府は独自に公私立の授業料を実質無償化しており、国の施策により地域差がなくなれば、不公平感も解消されるだろう。
しかし、教育の機会均等や質向上につながるかは疑問だ。そもそも、近隣に私立が少ないか、ない地域がある。都市部では公立離れが進む可能性が指摘される。高所得世帯では授業料が無償になった分を塾代に回す家庭も出てこよう。地域や公私立の違い、経済力による格差が広がる恐れは否定できない。
授業料無償化は本来、少子化を踏まえた高校全体の将来像と合わせて検討すべき課題である。ところが自民党、公明党、日本維新の会が政策合意に至る過程では、家庭に支給される金額ばかりに焦点が当たった。現時点でも財源は示されていない。
3党は5月にも制度設計の方向性をまとめるという。だが、まずは本質的な論点を深めるべきだ。教員のなり手不足など教育の質に関わる問題が深刻化しており、解決に力を注がねばならない。
現在、国は就学支援金として世帯年収910万円未満の全ての高校生に最大11万8800円を、世帯年収590万円未満の場合は私立を対象に最大39万6千円を支給している。2023年度は全高校生の約74%が対象となった。
3党合意によると、授業料無償化は2段階で導入する。まず今春に910万円の所得制限を撤廃して公立を実質無償とする。26年度には私立で590万円の制限をなくし、支給上限を45万7千円に引き上げる。財源として25年度に年1千億円、26年度から年6千億円が必要という。
兵庫県内の公立高校からは「公立離れが加速すれば統廃合がさらに進み、高校がなくなった地域は公教育だけでなく地域そのものが衰退しかねない」と危惧する声が上がる。大阪府では今春入試で公立全日制の約半数が定員割れした。
都道府県や市などが運営する公立は、公平な予算配分が求められる。一方、私立は建学の精神に基づき柔軟で多様な教育がしやすい。単純比較すれば、施設の充実度などで公立が見劣りする場合は少なくないだろう。公立と私立が、それぞれの特色を生かしながらどう役割分担するのか議論が必要だ。
未来を担う子どもたちのために、「全入時代」にふさわしい高校教育の在り方を探るときである。