米トランプ政権がきのう、貿易赤字が大きい日本を含む世界約60カ国・地域に対して、相互関税の第2弾を発動した。税率は日本が24%、欧州連合(EU)は20%とこれまでの発表通りだが、中国は報復関税を発動したため上乗せされ、104%という異例の数字になった。
報復の連鎖に発展すれば自由貿易のメリットは失われ、世界的な景気後退が避けられない。投資家の間にも混乱が広がり、日米の株価は記録的な乱高下を繰り返している。輸入物価の上昇で経済に多大な悪影響が生じるとして、米国内でも反発の声は高まる。
しかしトランプ大統領は「関税の休止は考えていない」と発言し、意に介していない様子だ。
関税引き上げで相手国をどう喝し、自国に有利な交渉に応じるよう持ちかける。もはや米国は、世界の先頭に立って掲げていた自由貿易の旗をかなぐり捨てたと言っていい。
石破茂首相は7日夜にトランプ氏と電話会談し、対米投資の実績などを訴えて関税見直しを求めたが、言質はとれなかった。日本が赤沢亮正経済再生担当相を、米側がベセント財務長官を指名し、閣僚級協議を続ける合意を取り付けたのが、唯一の収穫と言える。
赤沢氏は首相の最側近だが、閣僚経験も議員としての外交経験も少ない点は懸念材料である。首相が相互関税を国難と位置づけるなら、自民党内の政治基盤の弱さを乗り越え、外交経験が豊富な与党幹部らのノウハウを結集させるべきだ。
米国に対しては、相互関税などを課された世界の70近い国が交渉を申し入れているという。イスラエルのネタニヤフ首相は、米国の貿易赤字解消などを表明した。EUも米と相互に工業製品の関税を撤廃することを提案する。各国が個別に交渉すれば、米国に譲歩する形になるのは明白だ。そうした動きが拡大すればトランプ政権の思惑通りではないか。
気がかりなのは、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画だ。バイデン前大統領は買収を禁止し、トランプ氏も否定的な立場を示してきたが、ここにきてトランプ政権は米当局に計画の再審査を命じ、実現の可能性が出てきた。
「雇用や技術が奪われる」とする米国側の主張の誤りを日本側は強く訴えていたが、それが認められた結果ではなく、日本への相互関税を断行するための取引材料にされるのではとの懸念が拭えない。
自由貿易のメリットを享受してきた日本は、自国への税率引き下げを強く求めるのにとどまらず、各国と連携して相互関税そのものの撤廃を米国に迫らねばならない。