米国の第2次トランプ政権が、4月29日に発足100日を迎えた。

 この間、国際社会の共通認識に背を向けて、多様性の重視や気候変動に関する政策を大統領令の乱発で撤廃した。自らを支援した実業家に連邦政府機関の解体を委ね、日本などの同盟国にも高関税を突きつけた。

 トランプ氏は29日の演説で、「ワシントンで最も重大な変革をもたらした」と豪語した。彼の熱烈な支持者にとっては、留飲を下げる思いなのだろう。

 だが「変革」で既存の政策を覆した先にどんな社会を築くのか。具体像はいまだに明確ではない。

 このまま超大国が迷走すれば国際社会に深刻な亀裂が入る。結果的に米国自身にも大きな損失が及ぶことを、トランプ氏は自覚すべきだ。

 米国では最初の100日間は政権の実力を見極める期間とされ、支持率も比較的高い傾向にある。

 ところがトランプ氏の支持率は、発足直後の45%から39%に下落した。100日後としては歴代最低の水準と米大手紙は分析する。

 中でも経済政策は評価が低い。相互関税は物価上昇など国内への影響も大きく、株式や米国債の急落を招いた。自動車業界などの要望を受けトランプ政権は影響緩和策を打ち出したが、政策効果の議論を煮詰めず場当たりで実行している証しだ。

 これまで米国は民主主義陣営の自他ともに認めるリーダーだった。看過できないのは、トランプ政権が自国優先でその地位を降りるにとどまらず、自国の民主主義までも揺さぶろうとしている点だ。

 トランプ政権が乱発した大統領令には、各地の裁判所が120を超す差し止め命令を出した。しかし政権はこれを無視し、判事の弾劾を迫っている。三権分立を揺るがせ、大統領独裁をもくろむのなら、もはや民主主義国家とは言い難い。

 ロシアとウクライナの停戦交渉を巡ってはロシアの意向に沿うような和平案を示した。自らの仲介による停戦を急ぐあまり、人権や国際秩序を軽んじる強権国家の振る舞いを容認する姿勢は疑問符が付く。

 フランスのマクロン大統領は、米国に代わってフランスが欧州全体に「核の傘」を差しかける構想を示した。米国への信頼が急速に損なわれ、世界の安全保障のバランスが崩れかねない状況を日本も留意する必要がある。

 日本にとって眼前の課題は、相互関税の国内への影響を最小限に抑えることだ。同時に、米国が世界の民主主義陣営の一員としての認識に立ち返り、人権や自由の擁護に積極的に動くよう、国際社会と連携して働きかけを強めなければならない。