山や公園の新緑が美しい季節になった。きょうは「みどりの日」。自然に親しんでその恩恵に感謝し、豊かな心をはぐくむ祝日である。

 日本は国土の約7割を森林が占める。世界全体では約3割であり、フィンランドなどに次ぐ有数の森林大国と言える。兵庫県も全国とほぼ同じ割合だ。私たちが緑に恵まれた環境にいることを再認識したい。

 日本の森林面積は横ばいだが、世界では減少を続けている。その理由の一つが大規模な火災だ。今年、米ロサンゼルスとその周辺で発生した山火事では、住宅など1万8千棟以上が損壊、多数の犠牲者が出た。韓国でも過去最悪の山火事が起きた。

 国内では2月に岩手県大船渡市で山林火災が発生した。3370ヘクタールを焼き、平成以降で国内最大の規模となった。3月には岡山市と愛媛県今治市でも山火事があった。森林に異変が起きているのではないか。

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 欧州連合(EU)などが支援する国際研究プロジェクトの研究グループは、岡山や今治、韓国の山火事の背景にある極端な高温や乾燥の多くが、気候変動によってもたらされたものだとする分析結果を発表した。プロジェクトのメンバーは「熱波が植生を乾燥させ、強くなった風が山火事を加速させる」とする。

 米環境シンクタンクによると、2023年に世界の山火事で失った森林は約12万平方キロに及ぶという。10年ごろまでは4万~5万平方キロで、近年の急増が目を引く。専門家は、山火事で出る温室効果ガスが温暖化などを悪化させ、さらに山火事が増える悪循環が起きていると述べる。事態は深刻と言うほかない。

 気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」は、産業革命前と比べた気温上昇を2度未満、できれば1・5度に抑えるとの目標を掲げている。気候危機を回避するには、確実に達成しなければならない。

神戸からの問題提起

 「1・5度を超える気温上昇のない世界で、健康で幸福に生活する権利」が侵害されるとして、神戸製鋼所の石炭火力発電所(神戸市灘区)の周辺住民らが、同社などに二酸化炭素(CO2)排出の半減などを求めた訴訟の控訴審判決が4月、大阪高裁であった。気候変動を巡る、司法の場での正面からの問題提起だ。

 住民らは石炭火力からの排出削減を特に優先的に行うべきと主張したが、高裁は「被告にのみCO2削減を義務付ける法令上の根拠は存在しない」などとして、一審に続いて原告側の請求を棄却した。判決を受け、原告らは「気候変動による人権侵害防止への展望を示すことを怠った不当な判決」との見解を示した。

 ただ、判決は1・5度を超える気温上昇を「人類の生存に対する深刻な危機を引き起こす恐れが高い」とし、脱炭素社会の実現に向け「CO2を排出しない再生可能エネルギーへの転換が優先される」と述べた。重要な指摘であり、政府や関係企業は重く受け止めてもらいたい。

次世代の権利を守る

 パリ協定を念頭に、日本政府は温室効果ガスの排出削減目標を「2035年度に13年度比60%減、40年度に同73%減」とし、50年までの排出量実質ゼロを目指す。この数字では「低すぎる」との専門家などの声もあり、最低限の目標である。

 ところが今年政府が改定したエネルギー基本計画では、火力発電は40年度でも発電量全体の中で3~4割程度を占める。CO2排出が多い石炭火力は割合も明らかにしていない。これでは目標達成は見通せない。

 気候変動がもたらす被害は森林火災だけでなく、豪雨による水害や土砂災害、猛暑による熱中症、海面上昇、感染症拡大など多岐にわたる。

 石炭火力訴訟の原告は、今後この環境下に置かれる若い世代の被害が大きいと訴えた。次世代が健康に暮らす権利を守るために、まずは気候危機の現実を直視する必要がある。そして手遅れになる前に、可能な限りの有効な取り組みを重ねたい。危機を招いた国際社会、とりわけ先進国に課せられた責務である。