米中両国は、双方が互いの輸入品にかけていた高関税を115%引き下げることで合意した。米国の対中追加関税率は30%、中国の対米追加関税率は10%に縮小する。
トランプ米大統領の関税政策で高まった大国間の緊張が緩和に向かったとして、株価上昇など市場には歓迎ムードが広がった。自国第一主義を掲げたトランプ政権の強硬姿勢に変化が表れたとの指摘もある。
しかし楽観はできない。引き上げ分の一部は90日間の停止措置を設け、両国の閣僚級メンバーで協議を続けるとしている。その結果次第では、再び高関税の応酬が始まる可能性が残る。
経済分野での米中のあつれきは第1次トランプ政権時代から強まっている。溝が広がれば、国際社会全体の不安定性は高まるばかりだ。
原材料の製造から最終製品の消費まで両国の経済構造は密接に依存し合っており、高関税は自国民にも深刻な影響を及ぼす。その点を自覚して、冷静に対立解消への道筋を描かねばならない。
貿易赤字の解消を掲げるトランプ政権は今年2月、計20%の対中関税を発動し中国も報復関税に踏み切った。その後、両国は報復の連鎖に陥り双方とも全輸入品に100%を超す異常な関税を課す事態となった。
米中間では双方の輸入品の価格が2倍以上に跳ね上がり、景気悪化は避けられない。米国では米国株やドル、債券が一斉に売られる「米国売り」が発生し、中国でも内需低迷に拍車がかかった。
メンツにこだわった関税の応酬が経済の実態に悪影響を及ぼし、両国政府はひとまず矛を収めざるを得なくなったと見て取れる。
だがトランプ大統領は中国の習近平国家主席と「恐らく今週末に電話会談するだろう」と述べ、さらなる市場開放を迫る構えを示す。
これまで米国は、巨額の補助金を背景にした安価な中国製品の大量輸出などを問題視してきた。今後も公正な貿易を促すため中国の内政課題に目を向けることが重要になる。
日本も関税引き下げを求め、米国との貿易協議を始めたばかりだ。日本との交渉が最優先と米国側は表明していたが、米国にとって最大の貿易赤字国である中国との協議が先行する形となり、対日交渉の優先順位が下がるとの懸念もある。
日本市場で米国車が少ないのは非関税障壁が要因とするなど、米国の主張には事実と異なるものも散見される。日本は今回の米中協議の過程をつぶさに検証して今後の対米協議に生かすとともに、理不尽な米国の要求は毅然(きぜん)として突き返す姿勢を持ち続けなければならない。