全国の河川や地下水を対象に、環境省が2023年度に実施した水質測定結果を公表した。人体への影響が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)について、回答が得られた39都道府県の約2千地点のうち、兵庫県を含む22都府県の242地点で国の暫定指針値を超えていた。22年度は16都府県の111地点だった。条件などが異なり単純比較はできないものの、汚染の広がりが改めて確認された。対策の強化が望まれる。

 環境中の水に関し、代表的なPFASであるPFOAとPFOSの合計で1リットル当たり50ナノグラム(ナノは10億分の1)という暫定指針値がある。23年度調査の最大値は大阪府摂津市の地下水で、この520倍の1リットル当たり2万6千ナノグラムだった。広島県東広島市では1万5千ナノグラムが検出された。深刻と言わざるを得ない。

 世界保健機関(WHO)傘下の研究機関はPFOAを「発がん性がある」、PFOSを「可能性がある」に分類する。指針値を超えた地点のうち飲み水に使われる場所では対応を取ったという。とはいえ水道水などのデータは注視し続けたい。

 とりわけ問題なのは、地元自治体が「排出元を特定できた」としたのが、岡山県吉備中央町や京都府綾部市など4例だけだった点だ。

 汚染源の一つには、PFASを含む泡消火剤を使ってきた米軍基地などが疑われる。だが自治体側が立ち入り調査を求めても、米側は日米地位協定を盾に消極姿勢を示す。汚染対策は喫緊の課題であり、国は全ての調査ができるよう措置を講じ、排出元の確認を急がねばならない。

 最大値が検出された摂津市にある大手空調メーカー・ダイキン工業の工場では、かつてPFOAを取り扱っていた。京都大などの研究チームは4月、住民約1200人と元従業員7人の健康調査結果を発表した。住民らの血中濃度は全国調査の値より高い傾向にあった。元従業員は5人から高濃度で検出され、3人が間質性肺疾患だったという。

 PFASによる健康影響には未解明な点が多い。環境省は血中濃度だけでは把握できないとして血液検査には慎重だが、分からないからこそ全国的な調査を実施すべきだ。兵庫県議会など全国各地の地方議会も、人体や環境への影響調査などを求める意見書を国側に送っている。

 水道水のPFASに関し、今は暫定目標値(1リットル当たり50ナノグラム)しかない。環境省は来年4月から基準値にする方針だ。水道事業者に検査を義務付け、値を超えれば改善を求める。ただ、米国が定めた規制値はPFOAとPFOSそれぞれで同4ナノグラムと格段に厳しい。日本も基準値が適切か検討を続ける必要がある。