参院選がきょう公示される。

 昨秋の衆院選で少数与党となった自民、公明両党が非改選を含めて過半数を維持できるかが焦点だ。参院選は時の政権への中間評価と言われるが、今回は結果次第で国政の枠組みが変わる「政権選択選挙」の様相も呈しており、重い選択になる。

 コメやガソリンなど家計を直撃する物価高対策をはじめ、通常国会で先送りした企業・団体献金の見直しや選択的夫婦別姓制度の導入、少子化対策、社会保障の将来像など争点は多岐にわたる。ウクライナ戦争や中東の紛争は長期化し、国際秩序は崩壊の危機にある。不合理な高関税政策などを掲げる米国のトランプ政権への対応も論点となる。

 難局にどう立ち向かうべきか。各党や候補者は諸課題への具体的な処方箋を示して論戦を尽くし、国民の不安や疑問に応えねばならない。

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 与野党伯仲の国会で、石破茂首相は「熟議」を掲げた。しかし目立ったのは懸案の先送りであり、野党が個々の「成果」を求めて与党に接近し、与党が数合わせにそれを利用するもたれ合いの構図だった。

 国会の開かれた場で与野党が政策の議論を深めて国民の関心を高め、その声を反映させて一致点を見いだす。これが与党を過半数割れさせた民意でもあったはずだが、内実は非公開の協議が重視され、政策決定の不透明さが際立った。期待外れに終わったと言わざるを得ない。

 各党が国会にどのような態度で臨んだのかも、有権者が投票先を選ぶ一つの判断材料になるだろう。

■物価高の処方箋示せ

 きのう、日本記者クラブで与野党8党の党首討論会が開かれた。訴えたい政策について、全員が物価高対策を挙げた。国民の暮らしを守るのは政治の役割であり、喫緊の課題と位置付けるのは当然だ。

 コメ価格など物価上昇に賃上げが追いついていない。低所得者層や若年層ほど影響を受けやすい。財源を明確にして、困窮する人を迅速に支援する政策の実行が待たれる。

 政府、与党は国民1人当たり2万円を基本とする給付金を打ち出した。大半の野党が掲げる消費税の減税・廃止について、首相は財源などを理由に否定する。

 首相は今春にも物価高対策として給付を試みながら、不評で断念した経緯がある。にもかかわらず公約として復活させたのは、野党の「無策」批判をかわす狙いが透けて見え、一貫性を欠く。

 消費税は社会保障の安定財源である。減税や廃止で負担軽減を訴える野党も、施策の実効性や代替財源の裏付けに課題を残す。有権者の歓心を買う「ばらまき」を競うようでは責任ある議論とは言えまい。

 人口減と高齢化の加速に伴い、医療や介護、福祉などの需要は増大する一方、サービスを提供する人手も財源も不足している。国の借金が膨らむ中、持続可能な社会保障制度をどう構築するのか。受益と負担の議論は避けて通れない。各党は選挙戦で丁寧に語る必要がある。

 自民派閥裏金事件に端を発する政治改革への対応も重要な争点だ。

 企業・団体献金の見直しは進んでいない。自民は存続を前提に「公開強化」、立憲民主など野党5党派は「禁止」、公明と国民民主両党は「規制強化」と三すくみのまま法案の採決にも至らなかった。「3月末までに結論を得る」との与野党合意はほごにされた。度重なる先送りは国民への背信というほかない。裏金づくりの真相究明も不十分だ。

 既成政党への不信の高まりが指摘される。選挙結果にかかわらず、今度こそ「カネのかからない政治」に向けた抜本改革を実現すべきだ。

■事実に基づく情報を

 改正公選法の下で初めて実施される国政選挙となる。選挙ポスターに候補者名の明記を義務づけ、品位を求めるなどの規定が新設された。

 昨年の東京都知事選や兵庫県知事選では、交流サイト(SNS)が大きな影響を与えうることが明らかになった。与野党はSNS上の真偽不明情報や誹謗(ひぼう)中傷への規制強化を検討したが、表現の自由との両立に苦慮し、声明を出すにとどまった。

 民主主義の根幹である選挙の公正さを揺るがす行為は容認できない。政党や候補者が事実に基づく情報を発信しているか、読み解く力が有権者に求められる。報道機関も、投票行動に資する正確な情報を伝え、自由で公正な選挙を支えていく。

 次代に向け責任ある政策を示している党や候補者を見極め、選択する機会としたい。