人口減少が加速する中、地域社会を維持し、主体的な取り組みを可能にする方策を示すことは、政治の最重要課題の一つである。ところが、参院選では各党がアピールする物価高対策などに隠れがちで、地方を巡る政策論争は深まっていない。

 東京一極集中が加速している。総務省の2024年の人口移動報告によると、転入者数が転出者数を上回る「転入超過」は東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)が約13万6千人に上る。一方、兵庫を含む40道府県が「転出超過」だった。人口減少下の東京一極集中は地方の衰退につながり、過度な集中は防災の観点からも好ましくない。

 政府は14年から「地方創生」を掲げ、東京一極集中の是正と人口減の克服を目指し、地方に移転する企業への税制優遇や移住促進などの政策を用意した。石破茂首相は初代の担当相として主導した。だが顕著な効果は見られず、日本人の出生数は昨年、70万人を割った。20年に東京圏と地方の転出入を均衡させる目標は達成できず、時期も先送りした。10年が経過した昨年6月に政府が公表した報告書は成果が上がらなかった要因の分析に踏み込まなかった。

 そうした中、政府は今年6月、地方創生の今後10年の指針となる基本構想を閣議決定した。地方の人口減少が加速する状況を「正面から受け止める」と記し、東京圏から地方に移住する若者を倍増させ、地域に関わる都市住民を「関係人口」として登録する制度の創設などを盛り込んだ。ただ、企業の本社機能の地方移転など従来の政策の焼き直しも多く、実現可能性は未知数だ。

 東京に移る人は若者、とりわけ女性が多い。地方で若い男女の数が不均衡になれば未婚率の上昇にもつながり、人口減少に拍車がかかる。各党は地域活性化を公約に並べるが、こうした構造的な課題を抜本的に解決する施策こそが必要である。

 自民党は基本構想に沿い、「ふるさと住民登録制度」を創設し、関係人口を地域の担い手確保につなげるとする。公明党はインバウンド(訪日客)の誘客や地域公共交通サービスの空白地帯解消を目指す。

 立憲民主党や国民民主党は地方分権を推進し、国と地方の税収配分の見直しなど権限や財源の移譲を進める。日本維新の会は「副首都」創設などの統治機構改革、参政党も政府機関の移転を主張する。共産党やれいわ新選組は、地域経済を支える中小企業振興などを訴える。

 人口減少社会を直視し、自立した地域社会を維持できるかは国の将来を左右する。各党は論戦で地方の活力を引き出す具体的な道筋を示し、実効性のある政策を競うべきだ。