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 戦後80年を迎え、混迷を深める国際情勢に日本はどう立ち向かうのか。軍事力を背景にした大国の暴挙が国際秩序を揺るがす中、「平和国家」として歩んできた日本の外交や安全保障も岐路に立たされている。

 だが、参院選で各党は物価高対策を巡る減税や給付の訴えに重きを置き、外交・安保政策については最終盤まで議論が深まらない。

 公約では、自民党と野党第1党の立憲民主党がともに「防衛力の抜本的強化」を掲げる。ただ中身については項目の羅列にとどまり、財源には踏み込んでいない。

 自民は「戦後最も厳しい安保環境」と強調し、長射程ミサイルによる反撃能力(敵基地攻撃能力)の確保などを盛り込んだ。立民は作戦能力向上や自衛官の処遇改善を挙げ「防衛増税は行わない」と主張する。

 日本維新の会は「国民負担に頼らず国内総生産(GDP)比2%まで増額」とした。公明、国民民主、参政の各党は防衛費増額に関しては明確な賛否を示していない。共産党、れいわ新選組は増額に反対する。

 政府は戦後、GDP比1%程度に抑えてきた防衛費を2%まで増やし、2027年度までの5年間で計約43兆円を投じる方針だ。しかし必要な追加財源に充てる増税の一部は時期の決定を先送りした。

 「負担減」が争点となっている選挙戦で国民負担を伴う議論を避けたのだろう。防衛費を大幅に増やせば社会保障など他の政策に影響が及ぶ。その点をどう考えるか、自民だけでなく、防衛力強化を訴える各党は正面から国民に語るべきだ。

 米トランプ政権は安全保障面でも同盟国に負担増を求めている。北大西洋条約機構(NATO)の加盟国は要請に応じ防衛費のGDP比を2%から5%に増やす目標を定めた。米側は今後日本に対しても同等の防衛費増を迫るとみられる。

 憲法が定める専守防衛と日本の国力に見合った防衛力とは何か。数字ありきでなく、国民的な議論を経て合意を形成すべき問題だ。参院選後の国会で各党の姿勢が問われるのは言うまでもない。

 課題は防衛費と財源論にとどまらない。立民は、沖縄県の米軍普天間飛行場の辺野古移転中止や安保関連法の「違憲部分廃止」、日米地位協定の改定も訴える。いずれも難題である。政権交代を目指すなら、その道筋を具体的に示す責任がある。

 人口減少が進む日本で国民の安全と暮らしを守るために何を優先するか。防衛力だけに頼らず、多国間協調と国際秩序の回復に寄与する外交戦略はあるか。防衛費増額ありきの風潮にとらわれず、各党の政策をじっくり見極めたい。