神戸新聞NEXT
神戸新聞NEXT

 少子化を受けて兵庫県教育委員会が進めている県立高校の再編計画が延期されることになった。

 当初の計画は2022年に公表された。前期と後期に分け、前期は今春に完了した。延期するのは後期分で、現在の中学1年生が高校に入学する28年春に全日制12校を6校に再編して開校する予定=表=だった。

 延期の理由は、26年度から私立高校に拡大される授業料無償化の影響や、高校教育改革を巡る国の動向を見極める必要が出てきたためである。無償化拡大で「公立離れ」を懸念する声が強まり、文部科学省は公立高校の魅力を高める財政支援策を打ち出す方針だ。県教育委員会はそれらを踏まえて再検討する。

 高校教育の地域間格差が生まれないよう、最大限の配慮が欠かせない。県教育委員会には県民への丁寧な説明も求められる。

    ◇

 県立高校再編の後期計画は阪神地域の2校を1校にするなどの内容で、25年度中に統合する学校を発表するとしていた。

 県教育委員会は今後、高校の校長や学識者らによる検討会で再編の対象となる高校や地域を見直す。定時制(多部制)と通信制の再編対象校も25年度に公表予定だったが、こちらも延期する。担当者は「できるだけ早く新たな計画をまとめたいが、現時点ではいつになるかまだ見通せない」と話す。

■深まらなかった議論

 今年2月、自民、公明、日本維新の会の3党が高校授業料の無償化拡大で合意した。公立、私立を問わず、所得制限なしに授業料(上限45万7千円)の家庭負担をなくす。

 授業料無償化は、本来なら公立と私立の役割分担や教育内容など高校の将来像と併せて検討すべき課題である。しかし、無償化される金額にばかり焦点が当たり、議論は十分に深まらなかった。衆院で与党が過半数割れする中、自民と公明が25年度予算案を成立させるために維新との合意を急いだからだ。

 無償化拡大により、私学人気の高まりが予想される。その影響で公立高校を希望する生徒の減少が加速すれば、統合再編に拍車がかかる可能性がある。私立高校の少ない市町では、公立がなくなると子育て世帯が流出するなど地域そのものが衰退しかねないとの危機感が強い。

 居住地や公私立の違い、親の経済力による格差や不公平感が広がらないか懸念される。国は影響を検証する必要がある。

 兵庫県内の公立高校教員や住民らでつくる「公立高校を守る会」は、再編計画を見直し少人数学級を実現させるなどして公立高校を残してほしいと要望している。

■求められる質の向上

 公立離れへの対策を求める声が全国で相次ぎ、文科省は6月、「高校教育改革に関するグランドデザイン(仮称)」を策定する方針を示した。交付金による公立高校の老朽化対策や指導体制充実などの支援策が盛り込まれる見込みという。教育の質向上につながる施策が望まれる。

 兵庫県教育委員会は、今春実施した前期分の再編についても検証する方針だ。開校した6校のうち、受験倍率が1倍を超えたのは西宮苦楽園高校(西宮北と西宮甲山が統合)のみだった。各校の1期生へのアンケートなども参考に課題を探る。今後の再編を考える上でも、検証結果を県民に広く公表してもらいたい。

 高校進学率は今や99%近い。生徒も多様化している。地域の実情や特性を踏まえつつ、全入時代にふさわしい高校教育や入試の在り方を探るべきだ。子どもに教育の質と機会を保証するには、環境整備に加え、教員など人員面の充実も重要になる。

 公立高校の魅力向上には、地域の理解や支援も鍵となろう。子どもや地域住民の声をすくい上げ、「ここで学びたい」と希望を膨らませる高校づくりを進めてほしい。