緊急避妊薬(アフターピル)が市販薬として処方箋なしに薬局やドラッグストアで買えるようになる。
厚生労働省は2017年、有識者や学会の慎重意見を受け市販薬化をいったん見送ったが、約90の国・地域で市販される現状を踏まえ、当事者団体の代表を交えて再検討し9年越しで専門部会が了承した。
市販の狙いは、迅速な服用を促し望まない妊娠を防ぐことが第一だ。使いやすくする工夫を重ね、女性を守る体制を社会全体で整えたい。
緊急避妊薬は排卵を抑える作用があり、性交後72時間以内に服用すれば約8割の確率で妊娠を防げる。市販に向け、国は販売薬局などを把握し、情報を公開する。
市販を巡る議論の焦点は、未成年者への対応だったが、臨床試験で安全性が確認されているとして、年齢は確認するが販売は制限しない。妊娠を希望しない若者を支援する観点から、親の同意も不要とする。
一方で、悪用や乱用を防ぐため、5月に新設された「特定要指導医薬品」に初指定し、専門の研修を受けた薬剤師による対面販売を条件とする。適正に使ってもらうため、薬剤師の面前での服用も義務付ける。
だが、薬剤師との対面を重圧と感じたり、プライバシーが守られるか不安に思ったりする女性もいるだろう。国は安心して購入し服用してもらえるようにする工夫を薬局に求め、販売開始後も課題の検証に努めてもらいたい。
薬局と専門機関との連携も不可欠になる。緊急避妊薬を繰り返し使う女性は、性暴力などで使用を強要されている恐れもある。必要があれば児童相談所や警察にスムーズに橋渡ししなければならない。服用後も妊娠の可能性は残るため、産婦人科の受診や検査を勧めることも重要だ。
16歳以上を対象に23年から実施された試験販売での価格は7千~9千円だったが、調査結果では費用面の不満が強かった。経済的な理由で使用をためらわないようにする支援策が欠かせない。
緊急避妊薬はあくまで緊急避難的な方法であり、一般的な避妊の重要性は変わらない。学校などでの性教育の充実も検討したい。近年は梅毒など性感染症の件数が高止まりしている。男性もお互いを守る意識を高め、避妊を女性任せにせず責任を持って関わるべきだ。
人工妊娠中絶の手術は23年度には12万6734件に上り、前年度から3%増加した。育児に悩み、精神的に追い詰められる母親も多い。緊急避妊薬の市販にとどまらず、妊娠や出産の悩みを抱える女性を強力に支援する仕組みを、官民が協力してつくりあげなければならない。