自民党総裁選がきのう投開票され、第29代総裁に高市早苗前経済安全保障担当相が選ばれた。結党70年で初の女性総裁である。衆参両院で少数与党だが、15日にも召集される臨時国会での首相指名選挙で野党は一本化できず、石破茂首相に代わり新首相に指名される見通しだ。
参院選から2カ月余り、首相の進退を巡る党内抗争で物価高対策などが進まない「政治空白」が続く。国民の厳しい視線は党全体に注がれ、裏金事件などで失墜した党への信頼回復を高市氏に託すことになる。
物価高やトランプ関税への対策など直面する課題への対処にとどまらず、社会保障や財政の持続性など、中長期的な観点に立った議論が必要だ。多党化が進む国会で、国民のために必要な政策の実現に向け、幅広い合意を取り付けることができるのか。党の再生へ背負う責任は重く、道は険しい。
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今回の総裁選は、1年前と同じ顔触れの5人が争い、1回目でトップに立った高市氏と2位の小泉進次郎農相との決選投票となった。最後は高市氏が国会議員、地方票ともに小泉氏を上回り勝利した。
高市氏は、前回は首相就任後も靖国神社参拝を続ける考えを示すなど保守色の強さが国政選挙を控えた議員に避けられ、決選投票で石破氏に逆転を許した。今回は幅広い支持を得るために党内融和を前面に押し出し、「らしさ」を抑制した。
小泉氏も失速への懸念から前回掲げた選択的夫婦別姓導入や解雇規制見直しなど党内を二分する主張を封印した。混迷を極める党をどう改革し、首相の座に就けば何に取り組むのか。踏み込んだ論争が求められたが、内向きの議論に終始した。参院選大敗の教訓から誓ったはずの「解党的出直し」には程遠いと言わざるを得ない。
信頼回復に不可欠なのが、衆参両院選大敗の要因となった派閥裏金事件に象徴される「政治とカネ」を巡る問題へのけじめだ。党が参院選総括で裏金問題が「党に対する不信の底流となっている」と明記したように、国民は忘れてはいない。
裏金問題にけじめを
だが高市氏から信頼回復への決意は伝わってこない。企業・団体献金の見直しについては「禁止よりも公開」の立場だ。旧安倍派を中心とする裏金に関係した議員の要職起用も否定しない。裏金問題の実態解明や政治資金改革の不十分さを認め、抜本的な見直しに取り組むのが、新総裁に課せられた重い宿題である。
総裁選の最終盤では決選投票を見据えた多数派工作が激化し、今も派閥を維持する麻生太郎最高顧問や旧岸田派を率いた岸田文雄前首相ら重鎮に支援を求める陣営が目立った。旧派閥への配慮や論功行賞ではなく、実力本位の党役員人事や組閣を貫く覚悟が求められる。
偏見や分断あおるな
少数与党の下、予算案や法案の成立には野党の協力が欠かせない。政権の安定には、野党との連携をどう深めるかが焦点となる。
高市氏は連立政権の枠組み拡大に意欲的だ。政党名は挙げてはいないが「首相指名までにできるよう努力したい」と明言しており、野党各党が実現を迫る政策への対応を含め、具体的な方策や合意への道筋を明らかにする必要がある。
臨時国会の最優先課題は物価高対策だ。高市氏は総裁選で野党が主張するガソリン税の暫定税率廃止に速やかに取り組むとした。しかし年1兆円規模の税収減に対応する財源を巡る議論は深まったとは言い難い。
自民、公明、立憲民主の3党が検討する給付と減税を組み合わせた「給付付き税額控除」の制度設計への着手にも前向きだが、実現には課題も多い。負担を巡る議論から逃げることなく、長期的な視野に立った財政改革や持続可能な社会保障を構築することで、国民が安心して暮らせる展望を示す責任がある。
外国人政策も主要な論点になった。受け入れ規制の厳格化を強く訴えたのが高市氏だ。告示日の演説会で奈良公園のシカが蹴られた話や「難民を装って来る人にはお帰りいただく」と訴えた。参院選で他党に流れた保守票を取り戻そうとの思惑が透けるが、偏見や分断をあおらないよう冷静な言動に徹するべきだ。
高市氏は当選後の会見で「多くの意見を聞き議論したい」と強調した。国内外の課題解決には国民の理解と協力が欠かせない。謙虚さを忘れず、自らの政権構想や目指す国のかたちを率直に語り、合意を重んじる真の熟議を定着させてもらいたい。