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 大阪湾の埋め立て地・夢洲(ゆめしま)を会場に158の国と地域が参加した大阪・関西万博が閉幕した。

 大阪府市が誘致を打ち出し2018年に開催が決まったが「なぜ今、万博が必要か」との疑問は解消されず、巨額の開催費用への批判などから前評判はふるわなかった。しかし交流サイト(SNS)の発信などで次第に注目を集め、終盤には連日20万人以上が訪れた。

 万博を運営する日本国際博覧会協会(万博協会)は、入場券収入などで賄う運営費収支を230億円以上の黒字と予測する。吉村洋文大阪府知事は「合格点に達している」との見方を示す。

 一般入場者数は2500万人を超えたが、目標の2820万人に届かなかった。運営費の黒字も一部を国が肩代わりした結果である。赤字が出なければよしとするのでは公費を投じた祭典の総括として不十分だ。

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 運営費には人件費や施設管理費などが含まれ、当初計画の809億円から1160億円に増えた。それでも万博費用の一部に過ぎない。

 本来、運営費とすべき警備費には国費を充てた。会場建設費や夢洲のインフラ整備、「空飛ぶクルマ」などの実証事業も含めれば、投じた国費は4兆円を超す。国民全員が1人4万円を払ったことになる。

 運営費の黒字達成は最低限の目標だ。問うべきは、財政難の中でこれだけの国費を投じた意義である。

「経済効果」は限られ

 万博誘致の目的の一つは関西経済の浮揚だった。会場には各府県の共同パビリオンが設けられ、兵庫県は県内の観光資源を「フィールドパビリオン」としてアピールした。

 しかし、城崎温泉や姫路城の客足は期待ほど伸びていない。観光庁の調査では、県内の延べ宿泊客数は万博開幕の4月から3カ月連続で前年を上回ったものの、7月は4・8%減った。

 経済産業省は万博の経済効果を2・9兆円と見込んだが、県内への波及は限られる。日本総研が24年12月に示した関西経済の実質経済成長率見通しは、24、25年度とも全国の数字と大差はない。大型イベントで地域が潤うとの考え方を再検証せねば、「経済効果」を旗印に巨額の公金投入が繰り返されるだろう。

 ポスト万博の経済活性化策として、夢洲では30年開業を目指しカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の建設が進む。IRを誘致した府市は、万博跡地も含めアリーナや高級ホテルなどの整備構想を描く。

 依存症への懸念などカジノには反対論が根強い。「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げた万博の跡地整備は、経済効果ばかりを求めず、さまざまな見地から考えるべきだ。

 万博協会の運営にも、厳しい目を向けざるを得ない。

 「並ばない万博」を掲げ、来場やパビリオンの観覧にスマホアプリによる予約を導入した。ところが、購入手続きなどが複雑で、前売り券の販売が伸びない一因となった。当初は当日券の設定がなく、大阪府知事が首相に直談判して実現に至ったが、硬直的な組織体質が露呈した。

共生の理想を次代に

 交通アクセスの脆弱(ぜいじゃく)性も浮き彫りになった。夢洲と市街地を結ぶ地下鉄が8月に停電でストップした際は、運転再開を来場者に告知しなかったこともあり、1・1万人が会場で一夜を過ごした。混雑を防ぐためと協会は釈明したが、飲料水の配布などは後手に回った。中央省庁や大阪府市、経済界の寄り合い所帯に来場者の安全を最優先する意識がどこまで浸透していたか疑問を抱く。

 パビリオン工事費の未払いを訴える業者が次々に現れ、訴訟に発展した問題も見過ごせない。協会は当事者間の問題として距離を置くが、関係省庁や大阪府市と連携し、事態収拾に努める必要がある。

 戦後80年の節目の今年、世界秩序が大きく揺さぶられ、国際社会に排外主義がはびこる。欧米では移民排斥のうねりが高まり、日本でも7月の参院選で外国人政策が争点に急浮上した。

 そうした中、万博では展示や食文化など参加国の個性に直接触れることを通して、各国からの来場者が相互理解を深める場となった。国際社会の理想像にも映った。

 大阪・関西万博開催の意義をあえて挙げるなら、「自国第一」が広まる今の時代に、多様な文化を受け入れ、共に生きる重要性を多くの人に発信したことだろう。わずか半年の夢とせず、レガシー(遺産)として共有し、次代に伝えたい。