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 パレスチナ自治区ガザの停戦発効を受け、イスラム組織ハマスがイスラエルから連行した人質のうち生存者20人全員を解放した。イスラエルもパレスチナ人約2千人を釈放した。苛烈な戦闘下で捕らわれていた人質の心中は想像を絶する。故郷への帰還を心から歓迎したい。

 一方で、戦火に巻き込まれるなどして亡くなった人質28人の遺体の返還は遅れ、これまで計10人にとどまる。イスラエル側はうち1人は人質ではないと主張している。

 見過ごせないのは、返還遅れを理由にした対抗措置の動きである。

 イスラエルは国連に対し、支援物資の搬入を半減させると通告した。その後、決定を取り消したが、進入路である南部ラファの検問所は封鎖されたままだ。深刻な飢えや健康不安に苦しむ住民の命を交渉材料とすることは断じて許されない。

 がれきが積み重なる現場での遺体収容が難航しそうなことは、和平交渉の段階から指摘されていた。ハマスは関係国の支援を受けながら、遺体の捜索と返還を急ぐべきだ。

 イスラエルのネタニヤフ首相は、ハマス壊滅の意思を捨てていないとされる。生存している人質が全て帰還したことで、攻撃を激化させる可能性すら指摘されている。

 仲介役のトランプ米大統領はハマス側の合意違反を批判するだけでなく、イスラエル側に強く自制を求めなければならない。

 和平交渉の第2段階も暗雲がただよう。停戦後、ハマスはガザ内の敵対勢力を攻撃するなど支配復活の動きを見せ、武装解除も拒んでいる。これに対し、トランプ氏は武力による武装解除も辞さない構えだ。和平の実現を第一にした冷静な対応を双方に求める。

 ガザの戦後統治はパレスチナ人が主体となるのが望ましいが、当面は国際機関の支援を受け、パレスチナ自治政府を中心とした包括的な体制を構築すべきだ。統治の実績を重ねながら、国家樹立とイスラエルとの2国共存の道をつけてもらいたい。

 今後は戦争犯罪の追及も欠かせない。国連人権理事会の調査委員会はイスラエルによるガザ攻撃をジェノサイド(民族大量虐殺)と認定し、国際刑事裁判所(ICC)はネタニヤフ氏らとハマス幹部の双方に戦争犯罪の疑いで逮捕状を出した。

 イスラエルを擁護するトランプ氏は猛反発し、ICC関係者に経済制裁を科したが、各国の努力を無にする暴挙と言わざるを得ない。

 国際秩序の回復には「法の支配」を取り戻すことが不可欠だ。「力による平和」を押し通せばかえって火種を残すことを、日本も含め国際社会が強く訴える必要がある。