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 2025年のノーベル平和賞は、南米ベネズエラの反体制活動家で野党指導者のマリア・コリナ・マチャド氏(58)に贈られることになった。独裁化を強める同国の政権を批判し、長年にわたり民主化運動を率いてきた元国会議員である。「鉄の女」の異名を持つ。

 ノルウェーのノーベル賞委員会は授賞理由について「権威主義者が権力を握った時こそ、立ち上がって抵抗する自由の守護者をたたえることが重要だ」と述べた。世界で民主主義が後退している現状への強い危機感が伝わってくる。

 民主化を求めて闘う人たちの側に立つという意思表示であり、強権的に振る舞う国家指導者らへの警告でもある。自由、民主主義、法の支配といった普遍的価値観を守ることが、持続的な平和の礎(いしずえ)となる。改めて心に刻みたい。

 昨年は、核兵器の使用は二度と許されないとする「核のタブー」の形成に貢献したとして、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が選ばれた。今年、ノーベル賞委員会が光を当てたのは民主主義だった。

 ベネズエラは世界最大の原油埋蔵量を有し、かつて中南米有数の豊かさを誇った。しかし、1999年に就任した反米左派の故チャベス前大統領は「バラマキ」とも言える政策を進め、経済低迷で国民は困窮した。後継のマドゥロ大統領は強権的な体質を引き継ぎ、2013年の就任以来、野党を弾圧している。

 マチャド氏は選挙を監視する非政府組織を設立し、10年の国会議員選挙で初当選したが、国会から排除された。昨年の大統領選では、政権の圧力で立候補を阻まれた。選挙管理当局はマドゥロ大統領の3選を発表したが、選挙過程に疑義があるとして、日本や欧米各国はこれを認めていない。

 ノーベル賞委員会によると、マチャド氏は拘束される恐れがあるため、授賞式への出席は難しいという。一方、ベネズエラ政府はノルウェーのベネズエラ大使館を閉鎖すると発表した。授賞の決定に反発したのだろう。対話のチャンネルは閉じるべきではない。

 今年の平和賞は、トランプ米大統領が受賞へのアピールを繰り返したこともあり、例年以上に注目された。トランプ氏は民主的な選挙で再選されたが、法の支配の無視や、権力の乱用が目立つ。議会や司法を軽視する姿勢も甚だしい。

 世界で権威主義が勢いを増す背景に、トランプ氏の影響があるのは確かだ。制度を整えるだけでは民主主義は守れない。市民一人一人の意識が問われていることを、私たちは肝に銘じる必要がある。