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 高市早苗首相が就任後初の所信表明演説に臨み、強い経済、力強い外交・安全保障政策などで「日本列島を強く豊かにする」と訴えた。強さにこだわる「高市カラー」を前面に打ちだした内容と言える。

 一方で、野党からの政策提案も受け入れるとし、「知恵を結集しよう」と呼びかけた。衆参両院で少数与党の現状では、法案成立や政策実現に野党の協力が欠かせない。

 自身の政治信条とどう折り合いをつけ、幅広い合意を形成するのか。政治の安定のためには首相の冷静なバランス感覚が求められる。

 最優先課題は物価高対策である。ガソリン税の暫定税率廃止法案の成立を目指すほか、給付付き税額控除の制度設計に着手し、中・低所得者の負担軽減を図るとした。自民党が参院選で公約に掲げた給付金は「国民の理解が得られなかったので実施しない」とあっさり撤回した。

 ただでさえ参院選後、自民党総裁選や公明党の連立離脱で長期の政治空白が生じ、対策は遅れている。経済対策の裏付けとなる補正予算案の提出を急がねばならない。

 財政健全化も急務である。首相は「責任ある積極財政」を掲げたが、歴代政権が目標としてきた基礎的財政収支の黒字化には触れなかった。新たに連立を組んだ日本維新の会と合意した食料品の消費税率ゼロや、野党の政策要求に応じれば、健全化の道は遠のく。財政再建の目標設定も明確にするべきだ。

 際立つのは、防衛費拡充に前のめりな姿勢である。2027年度に関連経費と合わせて国内総生産(GDP)比2%に増額する目標を、25年度中に達成するとし、国家安保戦略など安保関連3文書の改定も前倒しする。防衛費のさらなる増額が視野に入る。維新との連立合意では、防衛装備品の輸出を「5類型」に限る規制の撤廃も盛り込まれた。

 専守防衛の歯止めをなし崩しにしかねず、国内外で新たな火種となる恐れがある。国会での慎重かつ徹底的な議論が必要だ。

 政治不信を招いた「政治とカネ」の問題には言及しなかった。自民党役員や内閣人事で派閥裏金事件に関係した議員が名を連ね、新政権の「問題は決着済み」との立場は鮮明だ。だが国民の視線はなお厳しい。首相は裏金問題の再調査と再発防止策を巡り、改めて見解を示すべきだ。「企業・団体献金の禁止」から「議員定数削減」に軸足を移した維新も説明責任を負っている。

 多党化が進み、野党の役割と責任は増す。11月からの本格論戦で各党が目指す社会像を示すとともに、新たな合意形成の在り方をともに探ってほしい。