国の特別天然記念物トキが、本州で初めて石川県羽咋(はくい)市で放鳥された。2024年の能登半島地震の発生から2年半が経過した被災地の「復興のシンボル」である。野生のトキの定着につながる環境づくりを、他の地域にも広げていきたい。
日本各地に生息していた野生のトキは明治期以降、乱獲や農薬散布などでその数を減らし、03年に日本生まれは絶滅した。その後、中国から提供を受けたペアによる人工繁殖が成功し、08年に新潟県の佐渡島で放鳥が始まった。今では500羽前後が野外で生息している。
能登は本州で最後のトキ生息地として知られる。1970年に繁殖のために最後の1羽が捕獲され、佐渡島に送られた。
石川県では4年前に放鳥に向けた事業に着手した。能登の9市町にモデル地区を設け、農薬や化学肥料を減らしたり、水田に餌となるドジョウが集まる場所を設けたりして野生復帰できる準備を進めてきた。
今回放鳥されたのは、佐渡トキ保護センターから移送された18羽のうち8羽だ。残る10羽は仮設ケージで飼育し、2週間ほど慣らした後に放すという。
放鳥の舞台となった羽咋市余喜地区周辺は、今も地割れなど地震の爪痕が残る。飛び立つ姿に復興への希望を重ねる人々を励まし、地域再生を後押しする存在となってほしい。
能登での放鳥により、佐渡島で18年にわたり積み重ねられてきたトキの野生復帰は新しい段階に進んだ。多くの関係者の努力の成果にほかならない。
今後、石川県中能登町や島根県出雲市でも放鳥が予定されている。ただ、絶滅の危機にある状況には変わりがなく、全国の空を舞うには多様な生き物と共存できる環境の維持や回復に努めねばならない。
絶滅種の野生復帰では、豊岡市のコウノトリも実績を積み重ねる。2005年から人工繁殖させた個体の放鳥を始め、野外の生息数は540羽を超す。農薬に頼らず、生態系を取り戻す農業を地元農家が実践し、定着の支えとなってきた。
鳥に安全な環境では人も安心して暮らせる。生物多様性を守り続ける取り組みは、私たち自身のためでもある。























