ヒゲ騒動で一悶着(ひともんちゃく)あった「風と共に去りぬ」は、私たち月組のあと鳳蘭(おおとりらん)と遥くららによる星組で続演され、「ベルサイユのばら」同様、その後「バトラー編」や「スカーレット編」など、新たなバージョンも生まれ、何度も上演される宝塚の代表的な演目の一つとなりました。宝塚110周年の歴史の中で、観客動員の第1位が「ベルばら」、第2位が「風」なんです。その両方の初演に関われた私は本当に幸せです。
オスカルそしてレット・バトラーと180度違った役どころに挑戦させていただき、宝塚の男役冥利(みょうり)に尽きる幸せを感じていたのですが、今度は「源氏物語」の光源氏役のお話が舞い込みました。光源氏といえば、宝塚の至宝といわれ、尊敬してやまない春日野八千代先生の代表作の一つといわれる大役です。春日野先生が「白薔薇(しろばら)の貴公子(プリンス)」といわれるきっかけとなった役でもあります。当時まだお元気でお正月の公演には必ず祝舞を披露されていましたので、よほどのことに動じない私もさすがにこれには少々怖気(おじけ)づきました。
脚本、演出は恩師の柴田侑宏(ゆきひろ)先生。柴田先生は、春日野先生が演じられた「源氏物語」は、光源氏と女性たちとのエピソードを絵巻物風につづった舞踊劇仕立てだったので、今回は、田辺聖子さんの「新源氏物語」を原作にして「単に平安王朝の理想的な貴公子というだけでない、その深い心ざまとともに、行動的で果敢な決断力もある、情熱の青年ととらえ光り輝く美しさの中に、骨っぽいイメージを加えて人間、光源氏を描きたい」とおっしゃるのです。人間・光源氏、それなら私にもできるかもと思いました。