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転機を生きる

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「一緒に偽装をなくしましょう」とチラシを配る水谷洋一さん=5月26日、神戸市中央区(撮影・辰巳直之) 「愛知県三河一色産」と産地を偽装して販売された中国産ウナギのかば焼き=2008年6月 神戸新聞NEXT 神戸新聞NEXT
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「一緒に偽装をなくしましょう」とチラシを配る水谷洋一さん=5月26日、神戸市中央区(撮影・辰巳直之)

「愛知県三河一色産」と産地を偽装して販売された中国産ウナギのかば焼き=2008年6月

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「一緒に偽装をなくしましょう」とチラシを配る水谷洋一さん=5月26日、神戸市中央区(撮影・辰巳直之)

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■揺らぐ企業倫理、絶てぬ不正

 神戸・元町の大丸神戸店前。5月下旬の週末、真っ赤なTシャツ姿の男性がマイクを持ち、その前を買い物客らが通り過ぎていった。

 けげんな表情を浮かべる人や、「あの時の…」と記憶を呼び覚ます人もいた。視線の先に立つ男性の頭は、16年前に比べると、白髪がめっきり増えていた。

 兵庫県西宮市で倉庫業「西宮冷蔵」を営む水谷洋一さん(64)。「負けへんで」「目指せ 食品偽装の根絶」。月に数回、のぼりや看板を立て、訴え続ける。傍らには、車いすに座る次女(29)の姿もある。

 「自分の人生を自分自身に納得させるためにも、やめられない」

    □

 2002年1月。水谷さんは得意先だった「雪印食品」による牛肉偽装をマスコミに告発した。一躍、時の人になった。

 西宮冷蔵の倉庫が、偽装の現場だった。雪印食品は、牛海綿状脳症(BSE)発生を受けて国が実施した国産牛肉の買い上げ事業を悪用。安価な輸入牛肉を、国産牛肉用の箱に詰め替えた。この手口で、約2億円をだまし取っていた。

 「ミスだったことにして金を返せばいい」。水谷さんは、偽装をやめるよう雪印食品側に忠告したが、逆に協力を求められた。

 それなら腹をくくるしかない。「乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負」に打って出た。

 水谷さんの告発は、雪印食品を解散に追い込んだ。しかし、大きな誤算の始まりでもあった。「まさか食肉業界全てを敵に回すとは思わへんかった」

 偽装は他社にも広がっており、取引先を相次ぎ失った。国からは、雪印食品の偽装に絡んで虚偽の在庫証明書を発行したとして、営業停止処分を受けた。

 経営は、すぐに行き詰まった。次女は経済的な理由で希望の高校に進めなかった。1年遅れで入った高校も退学し、その後、自殺未遂を起こした。水谷さんは酒を手放せなくなった。

 ようやく再開にこぎ着けた会社も、故障した冷凍機の修理代などを捻出できず、再び休業が続く。

 街頭に立てば、今も募金してくれる人がいる。しかし、こんな思いもよぎる。

 「告発直後は注目されたが、結局は差し違えただけだった」

    □

 原料、産地、賞味期限、製造年月日…。牛肉偽装事件後、せきを切ったように食品業界の偽装工作が明るみに出た。

 不正に手を染めたのは、「白い恋人」「赤福」「船場吉兆」など、名の知れたブランドも例外ではなかった。兵庫県内でもウナギや日本酒の産地・原料の偽装が発覚した。

 「偽装は根絶したと信じていたが。いつまで企業は偽装を続けるのか」

 告発から16年。偽装の舞台は、日本を代表するものづくり企業に移っていた。40年以上にわたって不正を続けた会社もあった。

 「企業は『バレなければ、もうけたもん勝ち』という意識。牛肉偽装事件は、対岸の火事でしかなかったのか」

■品質過信、利益優先の果て

 「メード・イン・ジャパン」への信頼は今、大きく揺らいでいる。

 2017年10月。神戸製鋼所が、アルミニウムや銅製品の検査データ改ざんを公表した。18年3月に神鋼がまとめた調査報告書によると、不正は国内外の23工場で行われ、納入先は延べ約700社に上った。

 他社がまねできない「オンリーワン」を標ぼうし、長年にわたって築き上げてきた神鋼のブランドイメージは、深い傷を負った。

 不正発覚の前から、社員の間では危機感が広がっていた。

 17年5月、神鋼は全社員約1万2千人を対象に、職場でのコンプライアンス(法令順守)違反の有無を調査した。対象期間は「最近1年」に絞ったが、それでも「品質」に関する違反の疑いを指摘した社員が260人いた。「今後、違反が起こる懸念」に質問を広げると、「品質」を挙げる回答は2・4倍に増えた。

 平成の半ば以降、日本を代表するものづくり企業で、品質に関わる偽装が相次いだ。昨秋以降だけでも、日産自動車やSUBARU(スバル)、三菱マテリアル、東レなどで発覚。そのたびに「コンプライアンス」が呪文のように唱えられ、多くの企業が管理体制を強化したが、それでも不正は終息しない。

 「地道にものづくりをするより、いかに稼ぐかが評価されるようになった」

 神鋼の工場で設備担当をしていた元社員(65)は、利益を優先する企業風土への変化を肌で感じてきた。

 転機は1980年代。工場でかぶるヘルメットに「極限への挑戦」の文字が躍った。「受注してから、どう納期を間に合わせるか考える状態。生産目標は、毎日のように過去最高レベルが求められた」と振り返る。

 海外からは「過剰」と言われるほど品質を追求し、高度成長をけん引してきた日本のものづくり。平成の不況や海外企業との価格競争を背景に、品質への過信が「この程度なら」と不正を容認する甘えに変わっていった。

 神鋼は、川崎博也会長兼社長らの引責辞任と、再発防止策の徹底で信頼回復を図るが、東京地検の捜査で激震は収まらない。ものづくりの復権は、次の時代の大きな課題になる。

■ネットのフェイク情報、現実世界を侵食

 「偽装」の舞台は、平成時代に急拡大したインターネット空間にも広がっている。情報発信が簡単になった半面、誰もが加害者にも被害者にもなり得る時代になった。

 「熊本地震のせいで動物園からライオン放たれた」

 2016年4月、熊本市出身の大学生(23)=神戸市須磨区=は、短文投稿サイト「ツイッター」に掲示された情報に目を疑った。路上に立つライオンの画像も掲載されていた。

 投稿は1時間で2万件以上も転載され、拡散を続けた。地震直後の混乱の中、動物園など関係機関に問い合わせの電話が殺到する騒ぎになった。

 大学生は、被災地にある実家で暮らす両親にすぐに連絡。デマと分かった。「地震の後は、真偽が分からない情報がツイッターにあふれ、振り回された」とあきれる。

 熊本県警は、投稿した神奈川県の男を逮捕。ライオンは、無関係の画像の転載だった。災害時にネット上にデマを書き込んだとして逮捕されるのは全国初。悪ふざけが動機とされた。

 かつては口コミやチェーンメールで広がっていたデマや真偽不明の情報は、ツイッターやラインなど会員制交流サイト(SNS)の普及で、加速度的に広がるようになった。

 近年は、虚偽の内容をニュースのように編集・発信する「フェイクニュース」が大きな社会問題となっている。

 米国では、16年の大統領選で「ローマ法王がトランプ氏支持を表明」などフェイクニュースが飛び交った。中には偽のニュースサイトを開設し、トランプ氏の支持者を喜ばせるフェイクニュースを流して広告収入を稼ぐ不心得者まで登場した。

 日本でも17年に「新語・流行語大賞」のトップテンに入るなど、広く知られる言葉となった。

 パキスタンでは、「シリアに軍事介入した場合、核攻撃する用意がある」とのフェイクニュースを国防相が真に受け、イスラエルへの報復攻撃に言及する騒ぎに発展した。

 偽装された情報が、選挙結果や外交にまで影響を及ぼすほど、事態は深刻化している。(段 貴則、田中陽一)

2018/6/18

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