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転機を生きる

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NPO法人「ひょうご働く人の相談室」を結成し、電話相談に応じる市原直尚さん=神戸市中央区古湊通1(撮影・辰巳直之) 郵便局で非正規職員として働く高橋真由美さん=神戸市内(撮影・辰巳直之) 神戸新聞NEXT
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NPO法人「ひょうご働く人の相談室」を結成し、電話相談に応じる市原直尚さん=神戸市中央区古湊通1(撮影・辰巳直之)

郵便局で非正規職員として働く高橋真由美さん=神戸市内(撮影・辰巳直之)

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■増える非正規、細る労働組合

 「20年以上働いているのに雇い止めされそうです」「上司のパワハラがひどくて」-。

 神戸市中央区にあるビルの一室。NPO法人「ひょうご働く人の相談室」が6月、電話相談を始めた。市原直尚(なおたか)さん(59)ら10人が日替わりで対応する。

 内容は多岐にわたり、相談は数時間に及ぶこともある。受話器を置くたびに、市原さんは自問する。

 「働きやすい世の中になっているのだろうか」

 平成に入って共働き世帯が急増し、1992年に初めて片働き世帯を上回った。現在は約2倍になったが、1世帯当たりの平均所得はほぼ変わらない。非正規労働者が2・5倍に膨れたことが要因の一つだ。

 職場でのいじめや嫌がらせに関する各機関への相談も右肩上がり。一方で、労働者を守る労働組合の組織率は低下の一途をたどる。

 敷居の低い窓口が必要だと感じた市原さんらは今春、同NPO法人を結成。地域ユニオンや労組の元役員ら20人が参加する。

 「かつての私のように、1人で悩む労働者の役に立ちたい」

 組合活動とは無縁の生活を送っていた市原さん。20代で1級建築士の資格を取り、設計事務所での勤務を経て独立。約7年後、姫路市の建築関連専門学校の講師へ転身した。

 転機は2009年春。新任の校長が、教職員に対し一方的にネクタイ着用を強いた。講師の代表として話し合いを求めると、数日後に解雇された。

 「こんな理不尽があるなんて。家族に何て言うたら…」。妻と中高生の子供2人の顔が浮かんだ。当時はリーマン・ショック直後。世界同時不況が起き、全国で派遣切りの嵐が吹き荒れていた。50代での再就職は絶望的に感じられた。

 1人でも加入できる地域ユニオンの存在を知り、助けを求めた。09年12月に地位保全の仮処分が出されたが、経営側は就労も団体交渉も拒否。裁判に踏み切り、10年末に非を認めさせる形で和解が成立した。

 その後は地域ユニオンの一つ、兵庫ユニオンに常勤し、問題と向き合う。中でも忘れられない事件がある。

 環境関連の会社で、若手社員が「態度の悪さ」を理由に解雇された。ワンマン社長の「言いがかり」としか思えない処分。裁判や団交の結果、職場復帰が認められた。感謝で涙する社員に、市原さんは「私自身がこんな会社許せなかった」と語った。理不尽に怒りの声を上げる-。そこに組合の存在意義があると感じる。

 正社員に契約社員、派遣社員、嘱託、パート、アルバイト…。規制緩和により雇用形態は多様化した。市原さんは「労働者が“分断”された30年。他人の苦しみに共感する機会が少なくなり、一枚岩になれなくなった」と振り返る。

 国は労働環境の改善を旗印に“働き方改革”を進める。背後には、生産性向上など経営側の都合が透けて見える。「働き方がどんなに変わろうと、労働者が弱者であることに変わりはない」と市原さん。今日も、声なき声に耳を澄ます。

■同じ仕事をしていても

 高度経済成長期に「働き過ぎ」を指摘された日本人。平成に入り、統計上は労働時間の短縮が進んだ。

 厚生労働省によると、年間の総実労働時間は1990年の2064時間から2017年は1721時間に縮小。働く環境は改善したかに見える。

 しかし実態は、働く時間が正社員の半分とされるパートタイマーなど非正規労働者の増加が大きい。

 神戸市内の郵便局。高橋真由美さん(53)が、次々と小包を仕分けていた。スピードと正確さを求められる仕事。正社員に交じり、慣れた手付きでこなす。

 1日6時間、週5日間働き、時給は千円。06年から半年契約を繰り返しながら、アルバイトとして働く。

 夫(51)は数年前に病気で体を壊し、正社員として勤めた会社をやめた。現在は非正規として働くが、退職金はなく、老後の不安は尽きない。2人とも毎朝4時起きで働くが、家計簿を付けるたびにため息が漏れる。「今月は貯金できるやろか」

 高橋さんは、退職した人や休んだ人の代わりが務まるよう、担当外の仕事も覚えるよう努力してきた。正社員登用試験にはこれまで7回落ちたが、それでも自分を奮い立たせ、今年も挑戦した。

 「同じ仕事をしているのだから、認めてほしい。毎日、歯を食いしばって生きている」

 総務省の労働力調査によると、全国の非正規労働者は1989年の817万人から2017年は2036万人に増加。割合は19・1%から37・3%になった。

 倍増を後押ししたのが、04年施行の改正労働者派遣法。製造現場への派遣が解禁された。企業は、賃金が低く、景況や仕事量に応じて人数調整しやすい非正規社員を積極的に採用した。

 リーマン・ショックで景気が冷え込むと、「派遣切り」が社会問題となった。2010年版労働経済白書は「非正規雇用を増やし、結果として所得格差を広げた」と指摘する。

 「俺たちは部品じゃない」。神戸市内にある産業別労組の役員松浦喜久男さん(68)の耳には、今も15人の声が残る。

 09年、ベアリング製造大手の姫路工場で、派遣社員15人が解雇を通告された。減産に伴い、8月末までの契約を3月末で解除するという内容に、正社員で組合員の松浦さんも憤った。

 15人は20~30代。生まれたばかりの子を抱える父親もいた。いつか正社員になれると信じ、残業や夜勤も引き受けてきた。

 13人が松浦さんらと共に団交を重ねたが、会社側は「経営環境が好転しない限り難しい」の一点張り。裁判を起こし、最高裁まで争ったが、組合側の主張は退けられた。その日は悔しくて眠れなかったという。

 今年6月、残業時間を罰則付きで規制する「働き方改革関連法」が成立した。しかし、過労死ラインが月80時間とされる中、「繁忙期などは月100時間未満」と定める内容に、過労死遺族らは規制の甘さを指摘する。働く若者の命が失われる事件も後を絶たない。

 松浦さんは問う。「人を人として扱う会社は増えているのだろうか」

     □

 非正規労働者の約7割を占めるのが女性だ。

 政府や企業は「女性活躍」をスローガンに、子育て支援や管理職登用の動きを加速させている。だが、そこからこぼれ落ちる人も少なくない。

 「最後に外食したのはいつだろう。10年以上前で、もう思い出せない」

 尼崎市内の女性(41)は力なく笑った。

 3年前から大阪府内でパートの事務職として働く。週5日のフルタイム勤務。総合職の正社員と同様、発注手続きやデータ管理もこなす。しかし、手取りが15万円に届かない月もある。

 大学を卒業したのは「就職氷河期」真っただ中の2000年。40社近く受けたが内定はゼロ。地元企業でパートとして働き始めた。非正規職を転々としながら簿記や語学などの資格を取り、正社員を目指した。

 リーマン・ショックが起きたのは30歳すぎ。真っ先に「派遣切り」に遭い、数カ月無職だった。35歳を過ぎると、求職で年齢が壁になることが増えた。

 お見合いパーティーに通った時期もあったが、出会いには恵まれなかった。

 「みんなと同じように生きてきたはずなのに」

 同世代の友人は職場で昇進したり、結婚して家庭を持ったり。非正規、独身、アラフォー。押しつぶされそうな自分がいた。

 「時代のせいにはしたくない。でも…」。政府が掲げる「すべての女性が輝く社会」がむなしく響く。(末永陽子)

2018/8/20

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