平成時代を振り返る月1回の特集「平成模様」。2回目は、大手製造業や食品業界で相次いだ「偽装」問題をテーマに選び、ネット空間に広がるフェイクニュースなども取り上げた。だが、残念ながら「うそ」はこれだけにとどまらない。偽装請負、偽メール、ゴーストライター…。平成の「偽装」史を、特集で紹介できなかったニュースでたどると-。
■偽装請負
社会問題化したのは2000年代半ば。メーカーなどから発注を受けた請負会社が、自社の従業員や設備を使って商品を生産し、発注元へ納める。これが「請負」の基本だ。「偽装請負」の場合は、発注元が直接、請負側から送り込まれた労働者に指示を出して働かせる。
実態は「派遣労働」だが、派遣と違って発注元に使用者責任や安全衛生上の義務はなく、低賃金で働かせることもできる。バブル崩壊による長期不況のダメージを引きずる企業は、人件費抑制を狙って偽装請負に走った。そして、就職氷河期で正社員になれない若者らが悪条件で使われた。
兵庫県内では製造業だけでなく、篠山市役所や神戸刑務所(明石市)などでも同様の問題が発覚。兵庫労働局の是正指導を受けた。
■捜査書類ねつ造
兵庫県警自動車警ら隊(現機動パトロール隊)による捜査書類のねつ造事件は、163人が処分される前代未聞の不祥事となった。
表面化したのは04年6月。自転車の窃盗事件などを巡り、捜査書類に架空の被害者を記入して実績をでっち上げていた。不正は10年以上にわたって続いていた。
背景には厳しいノルマがあった。「(別の職場に)飛ばすぞ」「(仕事を)辞めるか」。ノルマに届かず、パワハラまがいの脅しを受けた隊員もいた。数字ばかりを追い求める「実績主義」が現場を追い詰めたとも言えるが、不正を正当化する理由にはならず、県警は猛批判を浴びた。
■偽メール
06年2月、1通のメールが国会を揺さぶった。
元ライブドア社長の堀江貴文氏が、自民党幹事長の次男に選挙コンサルタント費用の名目で3千万円を振り込むよう社内メールで指示した-。民主党議員の1人は入手したメールの写しを根拠に、衆院予算委員会で疑惑を追及した。
だが、間もなくそのメールは偽物と判明。提供したのは「フリー記者」だったが、この記者は記事を巡るトラブルから大手出版社などが“出入り禁止”にしていた人物でもあった。
政権に打撃を与えるはずが、民主党自体の信頼を大きく損ねる結果となり、当時、党代表だった前原誠司氏は引責辞任。追及した議員も辞職し、3年後に自ら命を絶った。
■ゴーストライター
“現代のベートーベン”も偽りだった。
「広島出身の被爆2世」「独学で作曲を習得し、35歳で聴力を失った後も絶対音感を頼りに作曲を続けた」。自らの経歴をそう語り、音楽界の注目をさらっていた佐村河内(さむらごうち)守氏の作品が、実は別人によって作曲されていたと分かったのは14年2月。ゴーストライターは作曲家の新垣隆氏で、代作期間は18年にも及んでいた。
問題発覚の約1カ月後に開かれた佐村河内氏の会見も話題になった。長髪をばっさり切り、トレードマークのサングラスも外して登場。黒ずくめの服でつえを突いていた頃とは全く別人のようで、会見場はどよめいた。
ちなみにこの年の12月、出版社の宣伝会議がネットアンケートを基に発表した「ワースト謝罪会見」ランキングで、佐村河内氏は3位。1位はSTAP細胞問題での小保方晴子氏、2位は政務活動費の流用疑惑を“号泣”しながら釈明した元兵庫県議野々村竜太郎氏の会見だった。
■モリカケ
記憶に新しいのは「モリカケ」問題。森友学園への国有地売却を巡って、「最強官庁」であるはずの財務省が公文書改ざんに手を染め、関わったとされる職員1人が自殺した。
加計(かけ)学園が愛媛県今治市で実現した獣医学部新設でも、「うそ」が取りざたされている。
愛媛県が学園側の報告を基にまとめた文書に、安倍晋三首相と同学園理事長の面会を示す記載があったと判明すると、学園側は「(愛媛県への報告は)虚偽だった」と弁明。だが、官邸側と愛媛県側の説明の食い違いは、まだほかにもある。
同県の中村時広知事は会見でこう話した。
「うそは発言した人にとどまることなく、他人を巻き込んでいく」
2018/6/18