山に遺棄された元保護犬、9月で8歳のお誕生日!(「南部屋」宿主の田村さん提供)
山に遺棄された元保護犬、9月で8歳のお誕生日!(「南部屋」宿主の田村さん提供)

「7年前、痩せて汚れて瀕死で山に棄てられていたクララさんを拾って、ご飯たくさん食べて元気出てきて、初めてシャンプーしてキレイになって、お家に入れてもらって、室内犬になって、家族が出来て、大好きなお兄ちゃんも出来て、その日をお誕生日に決めて、皆でお祝いした日の写真を見てやって下さい。」

青森県十和田市の奥入瀬にある小さな温泉民宿「南部屋(なんぶや)」の看板犬の1匹、元保護犬クララさん(雌・推定ラブラドール)。9月9日で8歳(推定)を迎えます。

宿主の田村暁さんが先月、クララさんの保護直後や過去のお誕生日の写真をX(旧Twitter)に投稿。5万件のいいねがついたほか「うちの子記念日おめでとう」「良いお家の家族になれてほんとに良かった」とお祝いのコメントが寄せられるなど話題を集めました。

田村さんによると、クララさんを保護したのは、2016年の9月2日。晴れて室内犬になってお誕生日をお部屋でお祝いしたのが、1週間後の9月9日だったといいます。そんな思い出の写真を投稿した田村さんに、クララさんとの出会いやどんなワンちゃんに成長したのか、看板犬としての活躍ぶりなどを聞いてみました。

■八甲田山中で発見された元保護犬 骨と皮しかないようなガリガリで悪臭がひどかった…

--クララさんの誕生日を9月9日と決めたのは。

「9月2日に保護後、汚れた体を洗えるようになるために体力回復も必要でしたし、獣医さんに診てもらう必要もありました。先住犬のリュックさん(雄・推定8歳)との相性も見極める必要があったので、1週間は裏小屋の中で衰弱したクララさんを看病したんです。ですので、室内犬になった9月9日が我が家で決めたクララさんのお誕生日。また保護時に獣医さんに生後約1年くらいと診断していただいたこともあり、9日で推定8歳になります」

--先月、お誕生日の時の写真を投稿したのは?

「実は先月スマホを機種変するために写真の整理をしていたところ、クララさんの保護直後や誕生日などの懐かしい写真が出てきたので、うれしくなって勢いで投稿しました。どうやらフォロワーさんには投稿した日がそのお誕生日の日だというように読めちゃったらしく…特に訂正はしていないのですが、実際の誕生日より1カ月くらいフライングした形になってしまいました(笑)」

--クララさんを保護した当時のことを教えてください。

「私がリュックさんを乗せて青森空港へ車で家族を迎えに行く途中、八甲田山中の国道脇のガードレールの下からひょっこりのぞくワンちゃんと目が合った気がして、数メートル先の路側駐車帯で車をUターンさせました。戻って確認してみたところ、道路脇の茂みの中にクララさんが横たわっていたんです。骨と皮しかないようなガリガリの状態だったクララさん…体中ウンチとオシッコまみれで悪臭がし、手足の爪も伸びきっていてとてもひどい状態でした。

私が近づくと尻尾を振って立ち上がろうとするのですが、うまく力が入らないようで立ち上がることができませんでした。私はクララさんを抱きかかえて車に乗せ、すぐにふもとのホームセンターへ駆け込み、水や犬用の離乳食、ソフトタイプのドッグフードを買って食べさせました。歩く元気はなかったものの、尻尾を振る体力はまだあったようで。尻尾を降りながらガツガツと夢中でご飯を食べるクララさんの姿は一生忘れられません」

--保護の翌日、病院にクララさんを連れて行かれたとか。

「はい。保護翌日に獣医さんに診てもらったところ、体重が6キロ弱でしたが、幸いにも飢えからくる栄養失調と体力の低下以外の病気やけがはなく、『ただご飯をしっかり食べさせて様子を見てください』とのことでした。さらに、伸びた爪の隙間に土が付いてなかったり、ふん尿で汚れてはいたけど体に泥や枯れ葉や野草の種などが全く付いていなかったので『山をさまよった感じではなく、誰かがこの子を山に運んで棄てたのではないか』とも獣医さんは言っていましたね」

■立ち上がることもできなかった元保護犬、突然立ち上がり...名前を「クララ」に

--おうちにお迎えした当初は?

「保護した後、すぐ近くの交番に拾得物の届け出をし、3カ月間落とし主が現れず、私が飼うことになりました。クララさんと暮らしていくうちに立ち上がるようになってもクララさんの歩き方がぎこちなく、さらには異常な食ふん癖があることが分かりました。そのことを獣医さん話したら『ケージからほとんど出してもらえなくて、ほとんど外や土の上を歩いたことがなかったかもね。だから歩き方が良く分からないのかも』と。またケージ内で満足なご飯もなく自分のふん尿で生き延びた可能性があるかもしれないと言われました。

最初は立ち上がることもできないほど体力が低下していましたが、栄養のあるご飯とお水をひたすらあげて2日程経つと、クララさんが急に立ち上がったので『立った!!』と皆で声をあげて喜びました。そう、(アルプスの少女ハイジの)クララが立った!!というわけで、その日から、この子の名前はクララになりました」

--立ち上がれるようになったクララさん。徐々に慣れていったようですね。

「体力が回復して立ち上がったクララさんは、まだ痩せて体型は少しいびつでしたが、ヤンチャで食いしん坊でした。やはり一度飢えてしまったからなのか食べ物への執着がすごくて。リュックさんのご飯やおやつを横取りする勢いだったので、リュックさんの分を確保するのに苦労しましたね。とはいえ、歩き方がぎこちなかっただけではなく、飢えた状態から私に保護され私からご飯をもらえるようになったことである意味ヒヨコで言う『刷り込み』がなされてしまったのか、もしくは再び棄てられるのが怖かったのか、とにかく私から離れるのが不安なようでずっと私の後ばかりくっついて、私の姿が見えないと悲痛な鳴き声をあげていました。

でも『歩き方』も『分離不安』もリュックさんがいることによって徐々に解決。リュックさんが散歩で歩き方のお手本を見せてくれましたし、私がいなくてクララさんが不安を感じている時もリュックさんが遊び相手になってクララさんの気を紛らわせてくれたんです」

■「看板犬」の2匹、相思相愛の兄妹犬に!

--クララさんにとって先住犬のリュックさんは頼りになる兄犬。どんなワンちゃん?

「リュックさんは結構気性が荒く、他のワンちゃんに対してはケンカっ早い性格なのですが、弱ったクララさんを保護する現場に一緒に居合わせたり看病の様子を見ている中で、クララさんのことを敵やライバルではなく、『弱い者』『守るモノ』として認識したようで、クララさんにケンカを吹っ掛けられてもご飯を横取りされても全く怒らず。それこそ大事な妹のように接してくれました。

2匹の相性がとても良かったのが一番うれしいことでしたし、後々宿をやりながら2匹を飼うに当たりいろいろな面で助かりました。今だにリュックさんはクララさんが大好きすぎてクララさんを甘やかすので、今ではクララさんは立派な絶対女王となり、リュックさんは立派な下僕となっております」

--看板犬としてのデビューはいつ?

「実はもともと、宿には犬が苦手なお客様もいらっしゃるので、2匹の存在は表立っておらず、館内の営業スペースに2匹は出していませんでした。でも常連のお風呂のお客さまやリピーターの宿泊のお客さまが何度もいらっしゃるうちに、やはり2匹の存在に気付く方もいて、徐々にそういった方に認知されて。館内の帳場前のスペースで遊んでもらったり、お見送りしたりするようになったのが3、4年前の話。本格的に『看板犬』と呼ばれるようになったのはここ1、2年のことです」

--最近のクララさんやリュックさんの活躍ぶりは。

「クララさんは少しビビりな面もあるので、最初は様子見でふた吠えくらいするのですが、今では絶対女王に君臨していますので、慣れてしまえばお客さまの前でも皆の中心に鎮座してチヤホヤされたい感が満載です。リュックさんが会話の中心にいるとすねます。またリュックさんは甘え上手なので、気に入ったお客さまを見つけては『なでて~』とすり寄っていきます。やはりクララさんはレトリバー系のワンちゃんを飼っていたり飼ったことがあるお客さまには断トツ人気です!」

--8歳になるクララさんですが、おうちにお迎えして今思うことをお聞かせください。

「今回久しぶりに昔の誕生日の写真を見返したりして『こんな時があったんだよな~』としみじみ思い出すとともに、今はクララさんもリュックさんも毎日楽しそうに生活しているのでその姿を見るだけで幸せだと思いますし2匹にはこのまま元気で長生きしてほしいな…、ただただそう思います」

兄犬リュックくんも元保護犬とのこと。九州の保健所から殺処分前日に保護団体のボランティアさんを介しギリギリで救出、お迎えしたそうです。クララさんとは相思相愛の仲だとか。おふたりともお幸せに!

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)