「映画ってこんなに酷いものなの!?」
“超”自主製作を標榜し、監督の自宅で撮影が行われた18禁映画『アジアのユニークな国』が6月28日に公開される。
■CM界の鬼才が自宅で
一つ屋根の下で義父を介護し、2階の寝室で違法風俗を行っている主婦・曜子(鄭亜美)の日常をきわどいセリフと性描写を交えて描く。
脚本・監督を務めたのは山内ケンジ(66)。日清のUFO仮面ヤキソバン、ソフトバンクモバイル「白戸家」など話題のCMを手掛けたことから、CM界の鬼才と呼ばれた。
吉田大八、関根光才、中島哲也ら広告映像のキャリアを足掛かりに映画の世界に参入する監督は多いが、山内は2004年に劇団・城山羊の会を立ち上げて演劇の世界で活動。2015年に最年長で岸田國士戯曲賞、2022年には読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞した。
満を持して映画監督デビューを果たしたのが2011年、53歳の頃。『ミツコ感覚』はワルシャワ国際映画祭のコンペにノミネートされるなど一定の評価を得て、ブレイク前の岸井ゆきのが主演した『友だちのパパが好き』、自身の戯曲を映画化した『At the terrace テラスにて』、オムニバス映画『クソ野郎と美しき世界』の一編で香取慎吾主演の『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』と、コンスタントに撮り重ねてきた。
そんな山内が“超”自主製作映画の第一弾『夜明けの夫婦』を撮ったのが2021年のコロナ禍。自宅を主な舞台にして、気心知れたスタッフ・キャスト少人数で完成させた。最新作『アジアのユニークな国』ではそのミニマムさをさらに突き詰め、実父まで俳優として起用。
広告業界でその名を轟かせ、演劇界でも一定の評価を得ているのに、なぜ自宅を撮影場所にした“超”自主製作スタイルで映画を作っているのか。
■ストレスゼロの映画作り
「演劇については大成功とまでは言わないまでも、赤字を回避するやり方にはなっていて、動員も見込めるようになりました。しかしこれが映画となると話は別。こんなに酷いものなのかと。要するに儲けにならない。赤字です」
であれば舞台だけをやっていればいいのに。どうして儲からないとわかっている映画作りに向き合うのか。
「CMの仕事をやっていた期間が一番長いので、自分は映像の人間だという自負があるからです。映画を作っても話題にならず、儲かりもしません。それに対して“これでいいのか!?”という気持ちがある。もっとうまいやり方があるのではないかと。前向きな姿勢で試行錯誤するのが楽しくなって、もはやプロデューサー的感覚すらあります」
周囲から干渉されることなく、自分がやりたいと思った世界を思った通りにアウトプットしたい。クリエイターとしての自我も強い。
「映画をやりたいと言っても、お金のかかった商業映画をやりたいわけではなく、自分のやりたいと思ったことをそのままやりたい。規模が大きなものになると、たとえ自分の脚本で映画を作ろうとしても、関わる人が多くなりすぎて妥協せざるを得ない部分が出てくる。ここが大きなポイントです。時間を取られて無駄な労力が多くて展望がない。60歳過ぎてそこに一生懸命になると疲れちゃう」
そこでたどり着いた答えが、自分の手の届く範囲内で自分のやりたいように映画を作るということ。超低予算なので儲けに対するプレッシャーはない。興行的リスクのある18禁をあえて狙ったのも、自分で予算を出しているので忖度する相手がいないから。「このスタイルがベストなのかどうかわからないけれど、ストレスは全然ありません」
自らの持ち味がフルに発揮された『アジアのユニークな国』。山内監督は「共感できそうだけれどできない。そんな非常にモヤモヤした感情に襲われていただきたい」と観客の反応を楽しみにしている。
(まいどなニュース特約・石井 隼人)