同級生の前で涙を流すりな ©︎もぐこん/新潮社
同級生の前で涙を流すりな ©︎もぐこん/新潮社

人は過ちを犯すこともありますが、時が経てば解決するわけでもなく、いつまでも心に嫌な記憶として残り続けることもあるでしょう。漫画家のもぐこんさんが手がけた『まつりのあと』は、幼少期に友達を殴ったことをきっかけに、10年も引きこもりになった女性を描いた読切作品です。以前X(旧Twitter)に投稿されると、1000以上の「いいね」や多数の反響が寄せられています。

■10年も引きこもった女性が取った衝撃の行動とは…

学生の頃、地元でお祭りが開かれた日に、同級生の周平を殴って気絶させてしまったりな。周平を殺してしまったと思ったりなは、その日をきっかけに10年もの間、自室に引きこもるのでした。

社会とのつながりを拒絶し続けていたある日、りなのもとに結婚式の招待状が。送り主は、自身が殺してしまったと思っていた周平でした。その事実を知った瞬間、りなは周平を殴ってしまった時のことを思い出します。

当時、周平はりなを茂みの奥に連れていった後、強引に胸を触り始め、咄嗟にりなは周平を殴ってしまいます。そして、周平は倒れた拍子に後頭部を石に打ちつけ、動かくなるのでした。周平の生存を知ったりなは、おもむろにハサミで伸びきった髪を切り、「私は周平くんの亡霊にとりつかれてたのに」「周平くんは楽しい人生を送っていたの?」と心の中でつぶやきます。

そして、周平の結婚パーティに参加したりなは、カバンの中に包丁を忍ばせていました。新郎新婦の入場が迫った時、鼓動が早くなるりな。そして、目の前に現れたのは車椅子に座っていた周平でした。りなが殴ったことはおおやけになっておらず、転倒事故によって下半身に障害が残ったと知らされるのでした。

思いもよらない事実を知ったりなは、結婚パーティの途中で帰宅。布団に潜り込み、「私が10年止まっているあいだ みんなそれぞれ生きてたんだ」と情けない気持ちに。すると、同級生のまいとみゆきが尋ねてきて、引き出物を渡されます。さらに「今度気が向いたらお茶でもランチでもしようよ」と声をかけられ、りなは涙を流すのでした。

読者からは「いろいろと考えさせられた」「後味は決して良くないけど、漫画としての読みごたえが素晴らしい」など好評の声が。そこで作者のもぐこんさんに、同作を描いたきっかけについて話を聞きました。

■影響を受けたのはつげ義春さんと植芝理一さん

-同作を描いたきっかけを教えてください。

当時、短編漫画を描こうとしているときにいわゆる「無敵の人」による事件が起こったことが一番のきっかけです。繰り返し流れてくるニュースを見ながら下手をすると自分も加害者側になりうるかもしれないという思いがあったので、そうならないための物語を考えたのだと思います。

-同作の中で、特に注目してほしい場面があれば、理由と一緒にぜひお聞かせください。

39ページで、周平が車いすで式場に入ってくるシーンから、ラストまでの一連の場面です。描かれてない十数年をどう過ごしたかを思い浮かべながら読んでいただけると、この話の残酷さをより味わっていただけると思いますし、ラストに込めたちょっとだけの希望も感じていただけると思います。

-私も拝読させていただきましたが、幼いながらも周平がりなに振るった暴力は決して許されることではないと思いました。心に傷を負ったりなが引きこもり続け、性暴力を振るった周平は結婚…という展開を描く中で、もぐこんさんはこういった不条理をどのような感覚で描いたのでしょうか?

小学校高学年~中学生くらいの女性に向けられる犯罪で、身体だけでなく心も抉られるように傷つけられることは何かを考えました。

ただし全くの想像ということではなく、つげ義春の『もっきり屋の少女』や、植芝理一の『ディスコミュニケーション』のエピソードである「天使が朝来る」など、先行作品からの影響があると思います。とくに『ディスコミュニケーション』の「天使が朝来る」は痴漢と思春期の少女の(非)恋愛を扱った傑作で自分が中学生くらいだった頃に読んで今でもたびたび読み返すほど大好きな作品です。

思春期を扱った話の多くは大人になることを象徴的に描いていると思いますが、大人になるプロセスから脱落し孤立する今様の物語として構想しました。

-読者にメッセージをお願いいたします。

もし『まつりのあと』が気に入っていただけたら、ぜひ『推しの肌が荒れた』『へそのお(原作:今橋元)』などの単行本を読んでください。次の漫画につながります。あと、たまにコミティアに出ています。よろしくお願いします。

(海川 まこと/漫画収集家)