ビリーが目撃したモノとは
ビリーが目撃したモノとは

「“初恋の人”と言っても過言ではない」

知る人ぞ知る極上スリラーが、約30年ぶりにお披露目。口のきけない一人の女性がロシアの撮影現場で殺人事件を目撃する『ミュート・ウィットネス』のデジタルリマスター版が8月15日から全国ロードショーされる。

■権利関係で12年封印

「新しい世代の映画ファンに私の長編映画監督デビュー作を観てもらえることを楽しみにしています。権利の問題で12年ほど観られなかった本作ですが、ようやく自分の手元に権利が戻り、周囲の勧めもあって4Kデジタルリマスターを施すこともできました。リメイク権及び続編制作権も自分の元にありますので、それについても大満足です」

そう心境を語るのは、製作・監督・脚本のアンソニー・ウォラー(65)。日本でのリバイバル上映にご満悦だ。

「日本で約30年ぶりに劇場公開されるのは光栄なことで、このタイミングに合わせて来日してみたかったです。本作は1995年に行われた第8回東京国際映画祭のヤングシネマ・コンペティションで上映されて、私も2日間東京に滞在しました。スティーヴン・スピルバーグ監督もお気に入りだという寿司屋で美味しいお寿司を食べました。『すみません、お酒ありますか?』『ウニ、美味しい!』などと自分の日本語力を試せるので、日本の寿司屋に行くのが大好きです」と親日家の様子。

2024年10月にはロサンジェルスで特別試写会が実施され、ウォラー監督もそこで初めて4Kデジタルリマスターが施された本作をスクリーンで鑑賞した。聞くところによるとWの喜びに包まれたらしい。

「とても素晴らしい映像で、私も思わず感動してしまいました。しかも本編が終了した時には日付も変わっており、偶然にもそれは私の65回目の誕生日でした。クリアな映像で30年ぶりに蘇った『ミュート・ウィットネス』鑑賞の喜びと合わせて本当にうれしく、同時にあれから自分も随分と歳を取ったものだと感慨に包まれました」と目を細める。

■デ・パルマに探される

1995年の公開当時、それまでCMやMVを手掛けていたウォラー監督による長編映画監督デビュー作は驚きを持って迎え入れられ、カンヌ国際映画祭を含む23もの映画祭に出品された。手に汗握る巻き込まれ型サスペンスは、アルフレッド・ヒッチコック監督やヒッチコックを偏愛するブライアン・デ・パルマ監督の諸作品を引き合いに出して比較検討されたりもした。

ウォラー監督自身はヒッチコックやデ・パルマの影響を否定するが、トロント国際映画祭での上映の際には興味深い出来事があったという。

「たまたま本作の上映回にデ・パルマ監督がいたそうで、何人もの人間から『デ・パルマ監督が上映後にお前を探していたぞ』と言われました。取材対応に追われていた私は結局お会いすることは叶いませんでしたが、果たしてデ・パルマ監督は文句を言いたかったのか、それとも褒めてくれたかったのか…。今となっては知る由もありません」

■『エイリアン4』オファーも

ウォラー監督自ら予算をかき集めて完成させた『ミュート・ウィットネス』は全世界で公開され、アンソニー・ウォラーという新しい才能にハリウッド大手も様々なモーションをかけた。

「同時多発的に様々な企画のオファーが舞い込みました。やっておけばよかったと思うものもあるし、断って正解だったと思うものもあります。自分でやっておけばよかったと思う作品としては『エイリアン4』(1997年にジャン=ピエール・ジュネ監督によって映画化)『イベント・ホライゾン』(1997年にポール・W・S・アンダーソン監督によって映画化)『フレディVSジェイソン』(2003年にロニー・ユー監督によって映画化)。断って正解だと思ったのは、アリシア・シルヴァーストーン主演の『エクセス・バゲッジ/シュガーな気持ち』(1997年)です」

ウォラー監督はその後『ファングルフ/月と心臓』(1997年)、『バッド・スパイラル 運命の罠』(2000年)、『地底の呻き』(2009年)などを手掛けたのちに暫し沈黙。エリザベス・ハーレイ主演『THE PIPER』(2023年・日本未公開)で久々に映画監督復帰を果たした。

そんなタイミングでの『ミュート・ウィットネス』デジタルリマスター版の日本公開。ウォラー監督の喜びがひとしおなのも当然だ。

「映画監督としての私のキャリアが始まった作品であり、自分にとってスペシャルな作品です。“初恋の人”と言っても過言ではありません。本作を作りたくて自分で資金をかき集めたこと、時代的に大変な時期にモスクワロケを敢行したことなど、すべてが強烈な思い出です。『ミュート・ウィットネス』は私の人生に様々な経験を与えてくれました」と再評価を願っている。

(まいどなニュース特約・石井 隼人)