「とうもろこし500本、5時間かけて一人で処理しました…誰か頑張ったねって言って」。長野県塩尻市で農業を営む「つむぐ農園」のあやさん(@tsumugunouen)がXに投稿した悲鳴にも似た一言が、5.5万件以上の「いいね」と共に大きな反響を呼んでいます。
投稿に添えられた、空になったコンテナが積み上げられた写真からは、激しい労働の跡がうかがえます。しかし、「とうもろこしの処理」とは、一体どのような作業で、なぜこれほどまでに大変なのでしょうか。その背景には、消費者に美味しいとうもろこしを届けるための、知られざる農家の奮闘がありました。
私たちが普段何気なく手に取るとうもろこし。その一本一本が出荷されるまでには、収穫後にもいくつもの手間がかかっています。あやさんが行った「処理」作業は、主に以下の4つの工程に分かれます。
・茎の裁断: 収穫したままのとうもろこしは茎の先端が尖っていて危険なため、「押切」という道具で安全な長さに裁断する。
・ヒゲのカット: ヒゲの先端を切りそろえる。
・検品: 虫食いや傷みがないか、ヒゲや皮の様子を観察しながらチェックする。
・計量・仕分け: 最後に重さを計り、サイズごとに仕分ける。
これら一連の作業を、500本分、つまり500回繰り返します。単純計算で1本あたり36秒。スピードと丁寧さの両方が求められる、まさに時間との戦いです。
目の前に山のように積まれたとうもろこしを前に、あやさんは「今年も来たな…という気持ちです(笑)」と、その心境を語ります。
つむぐ農園は夫婦2人だけで営んでおり、とうもろこしの収穫がピークを迎えるこの時期は、まさに戦場です。500本の処理は、この時期の多忙な一日の中の、一つのタスクに過ぎません。
「この時期になると、早朝まずその日の受注をすべて取りまとめて必要な本数を品目ごとに計算します。それを夫が収穫してくれる間に、私は他の作物の収穫や道の駅に出荷する野菜の荷造りを行い、出荷します。その後、とうもろこしの処理にかかります」(あやさん)
夫婦二人、限られた人手で効率よく作業を進めるため、役割分担と段取りの工夫が欠かせないと話します。
どれほど作業に慣れても、特に神経をすり減らすのが検品の工程です。
「虫食いや傷みを見逃さないよう、くまなくチェックしなくてはならないのですが、やはり見えない部分に潜むものを見つけるのは非常に困難で気を使います」(あやさん)
一本たりとも見逃せないというプレッシャーの中、黙々と続く厳しい選別作業。そんなあやさんを支えているのが、塩尻市ならではの豊かな自然と、人の温かさです。
「圃場はアルプスを見渡せる高地にあり、美しい山々に囲まれた景色を楽しみながら仕事をすることができます。地域の方々はみなさんとても優しく温かく、そのことも私たちにとって大変助けになっています」(あやさん)
Xに投稿された「頑張ったねって言って」という言葉は、多忙な日々を送る中での偽らざる本音だったのでしょう。その投稿に寄せられた多くの労いと感謝のコメントは、美しい景色や地域の支えと同じように、あやさんの心を温かく励ましたに違いありません。