自分はバイトだと言い張り犬を渡して逃げる男性(C)常喜寝太郎/小学館
自分はバイトだと言い張り犬を渡して逃げる男性(C)常喜寝太郎/小学館

最近では、街中で保護犬や保護猫のための募金活動を目にする機会も増えてきました。しかし、殺処分される動物を救いたいとの思いで募金しても、そのすべてが本当に保護活動に使われるとは限りません。漫画家の常喜寝太郎さんがX(旧Twitter)に投稿している作品『イヌの街頭募金、あなたは払う?払わない?』では、寄付をする側の判断の大切さが描かれて注目を集めています。

物語は、主人公・星野スズの母親が「詐欺にあったかもしれない」と帰宅する場面から始まります。どうやらスズの母は、駅前で「保護犬のため」と募金を募られ、月3000円の定額寄付を申し込んでしまったけれど、後から不安になってしまったようです。自分では手に負えないと考えたスズは、個人で動物保護活動をおこなっている久我に相談します。

後日、久我と一緒に現場に向かうと、そこには犬を連れた男性が募金を呼びかけていました。しかし久我が男性に近づき様子を見てみると、犬は飼い主のはずの男性と目を合わせようとせず、不自然に落ち着きがありません。

男性を不審に思った久我が問いただすと、男性は「自分はアルバイトだ」「契約をなかったことにしてほしい」と訴えます。つまり、その場で募金を集めていたものの、犬の管理も知識もなく、善意を装ってお金を集めていたようです。久我は男性から犬を引き取ると、街頭募金についてスズに「募金する側は自分で見極める目を持つことが大切」と語るのでした。

読者からは「よく街で見かける」「私の地元の駅でも明らかなヤツがいる」など、実際に募金を呼び掛ける怪しい人を見かけたという声があがっています。そこで同作について作者の常喜寝太郎さんに話を聞きました。

■街頭募金って結局どうなのか?の疑問に答える

ーこの物語を描こうと思ったきっかけを教えてください。

この話を描くことになったきっかけは大きく2つあります。ひとつは「街頭募金って実際どうなのか?」という疑問に答えるためです。街頭募金は1日で数万円が集まることもあり、保護犬を知ってもらうきっかけにもなります。しかし、犬を炎天下に立たせたり、お金の行き先が不透明な例もあります。だからこそ寄付する側が信用できるか調べることも“保護”だと思うんです。

もうひとつは、バトルや恋愛と比べて、保護活動のマンガはジャンルとして読者が少ないと感じていたので、明確な悪役を登場させ、エンターテイメントにして、「本当に知ってもらいたいこと」を読んでもらえるように考えました。活動そのものは素晴らしいので、これで読んでもらえなかったら自分の力不足だと思ってプレッシャーを感じましたね(笑)

ーたくさんの取材されていると思うのですが、取材先は漫画を通じて知り合った方々ですか?

元々の知人もいますが、主にマンガに必要なオファーをかけてご協力いただいています。取材先を1カ所にしてしまうと、意見が偏るので、できるだけ多くの意見を取り入れるようにしています。

例えば、うさぎの飼育小屋の話はうさぎの保護活動団体さんや小学校、活動者さん、一般の方など、かなり多くの方にたくさんの時間をかけてお話を聞かせていただきました。

また同じ方に数日後、何度も確認することも多いです。このマンガはみなさんの取材協力があって完成しているところが大きいです。

ー今回の話で常喜さんが一番伝えたいメッセージを。

このマンガの大きな目的は「知ってもらうこと」です。明らかな虐待や詐欺はおかしいですが、基本的に誰かが一方的に「悪」というのではなく、知った上でどう感じるか、行動するかは自由です。そして、少しでも動物を好きになってもらえたら幸いです。

また、ありがたいことに『全部救ってやる』は2025年9月の次にくるマンガ大賞で上位にノミネートされました。ぜひ読んでいただければうれしいです。

(海川 まこと/漫画収集家)