近年「カスタマーハラスメント(カスハラ)」に関する相談件数は、ハラスメント全体で唯一増加傾向です。日本では「お客様は神様」という価値観が根強く、サービスに対する期待が過度に高まりがちです。その結果、接客現場では理不尽な要求や暴言にさらされるケースが後を絶ちません。
そんな中、空港でGS(グランドスタッフ、地上旅客職)として働くゲンジツさんの「【悲報】日本人男性、一番接客したくない客アワード受賞」という投稿が、多くの反響を集めています。
「日々寄せられるクレームの内容は、連れと席が離れている、チェックインカウンターの場所がわかりづらい、待ち時間が長い、預け荷物の重さ制限を知らなかった、などスタッフに責任のない内容がほとんどです。」と語るゲンジツさん。
ですが、ゲンジツさんによると、以前はスタッフに非がなくても謝罪する教育がありましたが、最近は悪質クレームには毅然と対応する指導に変わりつつあるようです。
「低賃金・重労働の現場ではスタッフの疲弊が深刻です。サービスには限界があるという認識を、利用者側にも持ってもらう必要があります」とゲンジツさんは訴えます。
一方、2025年4月、東京都をはじめとする自治体で「カスタマーハラスメント防止条例」が施行されました。
空港業務のような接客現場への影響と今後の展望について、はやし総合支援事務所の林雄次先生に話を聞きました。
■「正当なクレーム」と「許されない言動」の線引きを社会全体の共通言語に
ー 2025年4月に施行された条例は、空港業務のような接客最前線ではどのような影響を与えていますか?
条例では「禁止」「正当なクレーム保護」「事業者の取組」が明文化され、空港業界でも整備が進んでいます。時間拘束や土下座強要などを具体例として示し、必要に応じて対応拒否や警察連携まで明示する方針です。
ー 2026年度に予定されている国の義務化に向けて、企業はどのような準備をすべきでしょうか?
改正法では、相談窓口の設置や社員教育、迅速な対応などが義務になる見込みです。企業はまず方針を固めて体制を整え、そのうえで窓口設置や研修に取り組む必要があります。しかし、体制づくりや研修の浸透には時間を要するため、対応計画を策定して早めの準備が必要です。
ー現場スタッフが悪質なクレームに「毅然と断る」ために、企業としてどのようなサポートや体制を整えるべきでしょうか?
企業は、カスハラの定義を明確にし掲示する必要があります。また、社員がいつでも参照できる基準票や、証拠保全用の記録表を整備することも有効です。さらに、研修を通じて“断れる”体制を日常業務に根付かせることが求められます。
ー 社会全体でどのような意識や取り組みが必要ですか?
「正当なクレーム」と「許されない言動」の線引きを社会全体の共通言語にすることが大切です。国や業界は基準づくりと後押しを担い、企業は断れる仕組みをつくっていくことが求められます。利用者自身も伝え方をアップデートし、気持ちよく働ける・利用できる環境を共に作る必要があると思います。
◆グランドスタッフの現実(ゲンジツ)さん
空港で10年以上働く現役GS。不幸なGSを一人でも減らすことをモットーにGSの“ゲンジツ”を発信している。2025年9月にGSのオンラインコミュニティを開設。
◆ 林 雄次(はやし・ゆうじ)さん
600以上の資格を持つ「資格ソムリエⓇ」。社労士・行政書士・中小企業診断士など多方面に活躍し、『今すぐできる営業ノウハウ30』など、著書は50冊以上。僧侶としての一面も。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)