日本と韓国(barks/stock.adobe.com)
日本と韓国(barks/stock.adobe.com)

 高市早苗氏が自民党総裁に選出され、初の女性総理大臣の見通しであることは、日本政治に新たな時代の幕開けを告げた。高市氏は自民党でもタカ派として知られ、今後はどのような外交を展開していくかが注目される。そのひとつに対韓外交があるが、靖国や歴史問題などで関係が後退するとの懸念も聞かれる一方、高市氏は韓国との関係を重視する発言もしている。

 今後の日本の国益を戦略的に考慮すれば、日韓協力が国益になるという意識が重要となる。これまでの日韓関係は、時の政権や歴史認識をめぐる問題に左右され、「いい時もあれば悪い時もあった」という変動の歴史をたどってきた。その中で日本は、国益を守るため、韓国と厳しく対立する時もあった。

 しかし、今日の世界情勢、特に東アジアの安全保障環境は、もはや過去の論理で対応できる段階を超えている。北朝鮮の核・ミサイル開発の高度化、中国の軍事力の増強と台湾海峡を巡る緊張の高まり、ロシアと北朝鮮の軍事的接近など、日本と韓国が共通して直面する脅威は、かつてないほど深刻である。地政学的な視点から見ても、日韓両国は民主主義と自由経済という価値観を共有する隣国として、この激変する環境下で生き残るための共通の利害を抱えている。

 現実を直視すれば、従来の「対韓国で国益を守る」というスタンス、つまり、あくまで自国の利益と相手国の利益を分けて考えるゼロサム的な発想では、もはや日本の真の国益は守れない。脅威が国境を越え、グローバルに広がる現代において、日本が立つべき外交の基軸は、「日韓協力が国益になる」という視点だろう。

 「日韓協力=国益」という姿勢は、韓国の主張を無条件に受け入れるという意味ではない。むしろ、共通の脅威に対抗し、地域の平和と繁栄を確保するためには、日韓の連携強化こそが、中長期的に大きな日本の国益となる、という極めて戦略的な判断に基づいている。

 まず、安全保障協力は日本の国民の生命と財産を守る上で不可欠である。北朝鮮のミサイル情報共有、抑止力の強化、そして東アジアのサプライチェーン強靭化に向けた連携は、もはや猶予のない課題である。日米韓の三カ国協力を基軸としつつ、日韓二国間での防衛当局間の連携を強化していくことが重要となる。また、経済安全保障上の協力も欠かせない。ハイテク技術や重要鉱物のサプライチェーンの安定化は、両国経済の生命線であり、相互補完的な経済構造を持つ日韓が、特に半導体やAIなどの先端分野で連携を深め、経済安全保障を共同で推進することは、グローバルな競争力を維持する上でも最大の国益となる。

 高市氏には、歴史認識や過去の問題については毅然とした姿勢を保ちつつも、未来志向で「日韓協力=国益」という戦略的互恵関係を軸とする外交を強力に推進することが求められる。両国間の懸案事項を乗り越え、共通の国益という明確な目的地に向けて協力の舵を切ることが重要だ。これこそが、激動の国際情勢の中で、日本が主導的に東アジアの安定を築き、国力を最大化するための最善の道となる。この新たな視点に立つ外交こそが、新総理に託された最も重要な使命の一つであろう。

◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。