まさかの事故渋滞で4時間経過 ※画像はイメージです(Paylessimages/stock.adobe.com)
まさかの事故渋滞で4時間経過 ※画像はイメージです(Paylessimages/stock.adobe.com)

地方の営業所で働くAさんの1日は、いつも車の運転から始まります。愛車でもある社用車の走行距離は、とうに10万キロ超。この日も片道2時間以上かかる遠方の顧客を訪問し、長年の懸案だった大きな契約をまとめることができました。心地よい疲労感と達成感を胸に、Aさんは帰路につきました。

高速道路を順調に走っていた矢先、大規模な事故による通行止め渋滞に巻き込まれてしまいます。最初は「30分もすれば動くだろう」と軽く考えていましたが、1時間経っても、2時間経っても状況は変わりません。

4時間以上が経過し、ようやく渋滞が解消されたのは日付が変わる頃でした。疲労困憊で会社にたどり着き、誰もいない暗いオフィスでタイムカードを押した時、体は鉛のように重く、達成感は完全に消え失せていました。

Aさんのように業務で顧客を訪問し、社用車で帰社する途中で渋滞に巻き込まれた場合、残業代は支給されるのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。

■残業代が支払われるかどうかの境界とは?

ー「通勤時間」と業務上の「移動時間」は、法的にどう違うのですか

「通勤時間」と業務上の「移動時間」の法的な違いは、その時間が会社の「指揮命令下」にあるかどうかという点に尽きます。

自宅から会社へ向かい、会社からご自宅へ帰る「通勤時間」は、これから働くための、あるいは働いた後のプライベートな時間とされ、原則として会社の指揮命令下にはありません。そのため、労働時間にはあたらないのが一般的です。一方で、Aさんのように顧客先へ訪問したり、事業所間を移動したりする業務上の「移動時間」は、会社の指示に基づいて行われるため、「指揮命令下」にあると判断される場合が多く、その場合は労働時間と見なされます。

ー具体的に、「労働時間」として認められる移動にはどのようなものがありますか

Aさんのケースのように、社用車を運転して顧客先から会社へ戻る時間は、会社の管理下にある移動と見なされ、完全に労働時間となります。これは、トラックの運転手さんが荷物を運ぶために運転している時間が労働時間であるのと同じ考え方です。

また、たとえ直行直帰であっても、公共交通機関などでの移動中に報告書を作成しておいて」といった具体的な業務指示があれば、その時間は指揮命令下にあるため労働時間となります。

ー渋滞という不可抗力的な状況は、労働時間の判断に影響しますか

Aさんが遭遇したような事故渋滞は「不可抗力」とは見なされにくく、労働時間であるという判断には影響しません。たとえ事故で高速道路が通行止めになったとしても、会社に戻るという業務命令が継続している以上、その移動時間は労働時間であると考えます。

労働基準法では、地震や大規模災害といった「天変地異」の場合、休業手当の支払いが免除されるなど、例外的な扱いがなされることがあります。しかし、これは「そもそも会社に戻る物理的な手段が全くない」といった極めて限定的な状況を指します。

通常の事故渋滞で、時間がかかれば帰社できるという状況は、この「天変地異」には該当しないため、渋滞に巻き込まれていた時間も労働時間として扱われるべきでしょう。

◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市を拠点に、就業規則の整備や評価制度の構築、障害者雇用や同一労働同一賃金への対応などを通じて、労使がともに豊かになる職場づくりを力強くサポート。ネットニュース監修や講演実績も豊富でありながら、SNSでは「#ラーメン社労士」として情報発信を行い、親しみやすさも兼ね備えた専門家として信頼を得ている。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)