娘が私立の中高一貫校に入学し、Aさん(大阪府在住・40代)は保護者から選ばれる「クラス役員」を務めることになりました。役員は担任を招いた懇親会や行事を取り仕切る役割を担っており、この学校ではそれが暗黙の伝統として続いています。最初の大きな仕事となったのが、1学期の締めに行われる懇親会の企画でした。
形式的な集まりになると思っていたAさんを待っていたのは、一人の役員の突然の余興提案から始まる思わぬ展開でした。
■夜に届いた「余興やりませんか?」の衝撃
Aさんの娘が入学して数か月。新しい環境に慣れはじめた頃、クラス役員として初めての大きな仕事が懇親会の企画でした。6人の役員は出席確認や会場の手配、メニューの調整を分担し、準備は順調に進みました。特に問題もなく、あとは当日を迎えるだけ--誰もがそう思っていました。
ところが前日の夜、グループLINEに届いた一通のメッセージが空気を一変させます。送ってきたのは役員の一人Cさん。「明日の懇親会でクイズ大会をやろうと思っているのですが、どうでしょうか?」という内容でした。
これまで淡々とした会を想定していたため、他の役員は驚きましたが「反対するのも気まずい」と受け入れることに。しかしその直後から「景品を用意したほうがいい」「回答を4択にするので番号札を作る必要がある」と次々に指示が飛び交いました。時刻はすでに22時。自宅に画用紙がある役員が番号札を切り分け、すぐに見本を作って写真を投稿するなど、急な準備に追われることになりました。
■止まらぬ司会者
そして迎えた当日。テーマは「保護者はどれくらい学校のことを知っていますかクイズ」。Cさんが子どもから聞き集めた学校でのエピソードや、先輩役員から得た伝統ネタを出題し、保護者に答えてもらう形式でした。
進行をすべて仕切ったのはCさん。他の役員は事前に内容を知らされていませんでした。「それでは第2問です!」と、まるでバラエティ番組の司会者のような調子で会場を盛り上げます。しかし、学校事情を知っている担任が補足説明をしようと身を乗り出そうとしても、マイクは一向に渡されません。保護者は盛り上がっているようでしたが、時折担任が視線で「私も説明する時間がほしい…」と訴えかけているような様子も見られました。
会の終了時間が迫り、最終問題を終えた時点で3チームが同点に。別の役員が「時間もないのでじゃんけんで決めましょう」と提案しましたが、Cさんは「ここまで来たのにじゃんけんはもったいないです。決勝問題を出します」と譲りませんでした。
懇親会会場の従業員が退出時間を気にする中で決勝戦が行われ、最終的にCさんが「優勝おめでとうございます!」と自ら景品を手渡しました。担任も苦笑いしながら拍手を送るしかありませんでした。
■ついには飴配りまで開始、保護者会は彼女の舞台に
会が終わり、出口に向かう保護者たち。ほっとしたのも束の間、Cさんは店のカウンターに置かれていた「ご自由にお取りください」の飴のカゴを抱え、「今日は来てくれてありがとうございました」と笑顔で全員に配り始めました。結婚式の見送りを思わせる振る舞いに、戸惑う会場の従業員の姿がAさんの目に映りました。
他の役員たちは「とりあえず盛り上がってよかったね」と、ぼそっとつぶやき、皆がうなずきながら帰路についた保護者会となりました。
今回の懇親会は確かに盛り上がり、Cさんの明るさと行動力のおかげで保護者の関心を集め、学校生活を知る機会にもなりました。
一方で、担任の声や他の保護者の思いが十分に反映されなかった場面もあり、「交流の趣旨は何か」という問いも残りました。クラス役員は学校と保護者をつなぐ大切な存在です。Cさんの貢献に感謝しつつも、「次の懇親会でもまた突然のサプライズがあるのでは」と、Aさんは少し不安を感じながら帰路につきました。
(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)