元セクシー女優のフリーライター・たかなし亜妖
元セクシー女優のフリーライター・たかなし亜妖

「寝そべり族」とは、社会の競争を諦めた若者を指す中国発祥の造語です。高収入を望まず出世ルートさえ拒むなど“今ドキ”のスタイルが特徴であり、この風潮は一般サラリーマンだけでなく、キャバクラやホストクラブなどで働く夜職界隈でも出現し始めています。

夜職バージョンの「寝そべり族」は全体の3~4割を占め、彼らには「ナンバーワンになりたい」といった大きな夢はありません。自分が無理をしない程度の収入だけを望み、恋愛や結婚に対しての希望もなし。いかにストレスフリーな生活を淡々と送れるか、が最重要事項なのです。

■昼職より少し良いくらいの給料でOK!な20代後半ナイトワーカー

「うわぁ~寝そべり族って言葉、自分のことかと思いました!」と笑いながら語るのは、夜職歴5年のはなさん(仮名・27歳)。22歳でキャストデビューし、それ以来キャバクラやラウンジなどの飲み屋で働く夜のお姉さんです。

キャストデビューのきっかけは、実家を出て一人暮らしをしたかったから。入店したての頃は店休日以外は全て働く、超・やる気満々な“フル出勤”で頑張っていました。かつては気合いたっぷりのキャストだったにも関わらず、なぜ寝そべり族になってしまったのでしょうか(以下『』内、はなさん談)。

『まぁ、最初からトバし過ぎた説はあります(笑)元々フリーターで働くことに対してやる気がなく、のんびり生きていたんですよ。でも実家で居心地が悪くなり、自立するにあたって稼がなければならない理由ができまして。飲み屋は普通のバイトより時給が高いし、最初は面白いと思って頑張ったんですけど、やる気が続きませんでした』

また、はなさんは「自分は働き者ではない」と断言します。最初に頑張り過ぎてしまい、フル出勤を頑張れたのはデビュー後の1年間だけです。2年目以降から出勤数が週4日、3日と徐々に減り、最終的には指名客が来店する日以外にシフトを入れなくなりました。

お客さんを持っているおかげでクビにはならず、売り上げは毎月50万円程度です。月収は30万円に満たないくらいと夜職にしては低めですが、彼女はこれで満足だそう。自分に負荷をかけてエンジン全開でいるよりも、ストレスを最小限に抑え「いかにラクをするか」に重きを置いているとか(笑)。

『都心なら私なんてクビですけど(苦笑)下町の小さいキャバですからね。無駄に在籍年数は長いし、店には一応貢献してるのでダラダラ居させてもらってます。物欲もないし、家賃と携帯代さえ払えれば文句なし。結婚願望も特に……って感じなので、ずっとこの生活が続けばいいなとか思っちゃいますよ!』

■業界入りした理由が「ダラダラしたいから」

最初は頑張っていたけど段々尻すぼみに……といったケースが圧倒的に多いものの、一部では「元から仕事に対するやる気がない」からナイトワークデビューする生粋の寝そべり族もいるとか。

「ダラダラしたいので」というのを理由に業界入りした愛莉さん(仮名・29歳)は大学卒業後にOLをしていました。週5日働く日々が合わず、社会人生活をわずか2年でドロップアウトし、約1年ほどのニート期間を経て、ガールズバー→風俗と夜職の階段を上ります。

バー勤務からオトナのお店へ転向したのはお金が理由かと思いきや、“効率の良さ”を重視した結果だとか(以下『』内、愛莉さん談)。

『ガルバ(ガールズバーの略称)って時給1500円くらいだし、ドリンクバックも低い。夕方から朝までいたところで、太客を呼んでも給料はたかがしれてます。生活のために週4日出ても大して稼げなかったので、これなら時給1万円ちょっとで体売った方が効率良いなと』

現在は人間関係のしがらみもなし、出勤すれば最低3万円は稼げるお店に在籍中。出勤ペースは週2~3日の5時間勤務と、かなりのショートワークです。月収は25万円前後が基本で、休みが多い時はもう少しお給料が低いとか。

愛莉さんは家に引きこもり、延々とドラマや映画、YouTubeを観るのが大好き。本人曰く「私はニートの才能がめっちゃあると思う」だそうです(笑)

『ずーっと家にいても全然平気なタイプなんです。仕事に精を出す同級生たちを“すごいな”と尊敬してるけど、それを見て焦るとかもない(笑)年齢的に周りも結婚ラッシュだけど、“へぇ”みたいな。本当に何も感じないです。頭おかしいのかなぁ……。

え?将来についてですか?ノープランですよ。出勤日以外は引きこもりだし、チマチマ貯金はできてるので。夜職卒業したいとも思わないから、生涯ゆるっと現役みたいな感じでイケたらなという甘い考えですね(笑)』

Z世代特有の無理をしない・苦労やストレスは最小限・コスパやタイパ重視の傾向は、夜の世界にもよく現れています。モチロン夢を持って業界入り、一攫千金を狙うやる気十分なキャストも山ほどいますが、“寝そべり族”も一定数存在することがこのインタビューで分かりました。

大人たちからすると「将来どうするの?」と思うかもしれないけど、先のことを考えても明確な答えが出ないのは紛れもない事実。彼女たちの心の中よりも、未来に夢や希望が持てない社会が完成しつつある日本に、私は何とも言えぬ感情を抱いてしまうのです……。

◆たかなし亜妖(たかなし・あや)元セクシー女優のシナリオライター・フリーライター。2016年に女優デビュー後、2018年半ばに引退。ゲーム会社のシナリオ担当をしながらライターとしての修業を積み、のちに独立。現在は企画系ライターとしてあらゆるメディアで活躍中。