手製の紙芝居は「グローバルユース防災サミット2025」でも披露された(画像提供:津上さん)
手製の紙芝居は「グローバルユース防災サミット2025」でも披露された(画像提供:津上さん)

お母さんが防災士、娘三姉妹は紙芝居をつくって啓発活動、お父さんは裏方でサポート。家族をあげて地域社会の防災意識を啓発する活動に取り組んでいるのは、大阪府藤井寺市に住む津上さん一家だ。

小中学生の三姉妹がつくった「防災紙芝居」は今年、大阪・関西万博の会場で行われた「グローバルユース防災サミット2025」でも披露された。活動を始めたきっかけや、子どもたちに伝えたい「生き抜く力」について話を聞いた。

■大阪府北部地震で危機感を募らせた

インタビューに応じてくれたのは、母親の玲子さん、長女・遥菜さん(中2)、次女・葵葉さん(小6)、三女・楓花さん(小3)の4人。主に表へ出て活動しているのが母娘4人で、お父さんは裏方として活動をサポートする立場だという。

活動の中心は、防災関連のセミナーやイベントに参加して、遥菜さんと葵葉さんが防災を題材に製作した紙芝居を披露すること。この活動をするにあたって「team.カランコエ」というチーム名もつけた。カランコエとは、色鮮やかな花を咲かせる乾燥に強い多肉植物だ。

「いくつかある花言葉の中に『あなたを守る』があったので、チーム名に採用しました」(長女・遥菜さん)

津上さん一家が防災活動に目覚めたのは2018年、大阪府北部地震を経験したことがきっかけだった。

玲子さんは以前からペット関連のボランティアに参加しており、災害時にペットをどう避難させるかという課題に取り組んでいた。被災した経験はないが、阪神淡路大震災の記憶が生々しく残る世代にとって、いつ起きてもおかしくないという危機感は常にあった。そんなとき、大阪府北部地震が発生した。

遥菜さんは当時小学1年生で、発災時は登校の途中だった。「揺れが突然きて、何もできなくて……」と、当時の動揺を振り返る。

葵葉さんはすでに幼稚園に着いており、靴を履き替えているときだった。先生らがすぐ園児たちを誘導して避難させたが、玲子さんのもとへ「迎えに来てください」と連絡が入った。楓花さんはまだ赤ん坊で、地震の揺れに驚いて泣きじゃくっている。たまたま家にいたお父さんが、幼稚園まで自転車を走らせて葵葉さんを迎えに行ったが、もし家に玲子さんと赤ん坊の楓花さんだけだったらどうすることもできなかった。

「私らホンマに、どうするの?」と考えていたとき、知人から誘われた防災関連のセミナーを聞きに行った。それが、親子で防災を強く意識するきっかけになったという。

■三姉妹が紙芝居で紡ぐ「あなたを守る」物語

その後、玲子さんは防災士の資格を取り、「他の人に意識を啓発するにはどうすればいいか」と思案し続けていた。そして遥菜さんが小学5年生のとき、防災セミナーで出会った紙芝居作家との交流がきっかけとなって紙芝居をつくり始める。

たとえば、こんな作品がある。

・タイトル「なまず三姉妹と水害将軍」(作:遥菜さん)

『仲良しの「なまず三姉妹」が、緊急速報で観測史上最大の台風接近を知る。その2日後、公園で「水害将軍」の襲撃に遭う。三女がはぐれてしまうが、長女と次女は「もしものときは、自分たちの安全を!」の合言葉を思い出して安全を確保。そこへ三女が合流し、剣で水害将軍を撃退。この三姉妹は、じつはみんなを守る「防災三姉妹」だった』というお話だ。

「私たちと同じ三姉妹の設定にしたんです。ストーリーも、『こんなことをしたいね』って話しながら、親子一緒につくりました」

■子どもたちには「生き抜く力」をもってほしい

玲子さんの願いは、子どもたちに「生き抜く力」をもってほしいということ。

「不意に地震が発生したとき、何もできずパニックに陥ってしまうと、意図せず危険な行動に出てしまうのがいちばん怖いですよね」

それは、日常の小さなことでいい。例えば、長女の遥菜さんは、旅行で宿泊先のホテルに着いたら、必ず避難経路図を確認するという。さらに、危険を軽視したり自分だけは大丈夫と思い込んだりする「正常性バイアス」に陥らないため、すぐに気持ちを切り替えるよう意識しているとのこと。また、家族で万博へ行ったときは「今地震が来たらどうする?」「津波が来たら、私たちはどこへ逃げよう?」と話し合ったそうだ。

今、家族それぞれに防災リュックも用意している。津上さん夫婦の勤め先が自宅から徒歩圏内にあって合流が比較的容易なので、三姉妹用の防災リュックは避難所で一晩過ごすことを想定しているとのこと。

一方、お父さんはキャンピングカーのレンタル業を営んでおり、これが思わぬ形で防災に貢献している。2024年1月に発生した能登半島地震で、現地の薬局が倒壊した。店主から「家はつぶれたが、薬局を開けなければいけない」という問い合わせを受けて、スタッフの宿泊場所として2カ月ほど貸し出したという。

防災に関連するセミナーやイベントなどに参加して、地道に意識啓発に取り組む津上さん一家。家族をあげて防災活動に携わる例は、大阪では珍しいのではないだろうか。三姉妹の熱意溢れる紙芝居の物語が、多くの家庭の防災意識を揺り動かすことを期待したい。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)