小学4年生の子どもを2人で生活しているシングルマザーのAさん(30代)は、持病の悪化が原因で生活保護を受けています。可能な限り仕事をしつつ節制することで何とか生活していましたが、家計は常にギリギリの状態です。
そんな中、Aさんは2025年10月から2年間、生活保護のうち食費や光熱費などを補う「生活扶助」に対し、月500円の特例加算が実施される報道を目にします。これを知った瞬間は喜んだものの、Aさんはすぐに家計への効果を考え「これってうれしいニュースなの?あんまり変わらないのでは?」と思いました。
実際、月500円の加算はどれくらい効果があるのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの橋本ひとみさんに聞きました。
■一時的な物価対応策 “わずか500円”でも意味はある
ーそもそも「500円引き上げ」はどのような背景があるのでしょうか
2025年10月からの特例加算は、物価上昇への一時的な対応です。食料品や光熱費など生活必需品の値上がりによって、実質的な生活水準が下がっているため、最低限の生活を維持するための補正措置として実施されます。
対象期間は2025年10月から2027年9月までの2年間で、恒久的な制度改定ではありません。現行の特例加算1000円に上乗せされ、ひとりあたり合計1500円の加算となります。
ー具体的に、シングルマザー世帯にはどの程度の影響があるのでしょうか
単純に見ればひとり当たり月500円、年間で6000円の増額です。金額だけを見ると小さく感じますが、生活保護世帯では現金で自由に使える部分が限られており、子どもの学用品、通学の交通費、光熱費の補填などに使える点で一定の効果はあるでしょう。
ただし、現在の物価上昇率を踏まえると、「暮らしが楽になる」というほどの改善ではありません。実質的には、生活の底を支えるための“つなぎ”の支援という位置づけです。
ー加算を受けられない世帯もあると聞きます
今回の特例加算は、すべての生活保護世帯が対象というわけではありません。厚生労働省によると、1500円の加算を適用してもなお、生活扶助の基準額が昨年度(2023年度)の見直し前の水準を下回る世帯については、それまでの金額が維持される仕組みとなっています。
また、入院中や施設入所中の方は食費や光熱費が現物給付されているため、除外される場合があります。ほかにも働いている世帯は、収入分が差し引かれるため、加算された分がそのまま手元に残るわけではありません。
このように、特例加算によって実際に増える金額は、生活の状況や収入の有無や額によって変わり、必ずしも全額が上乗せになるわけではないのです。
そのため、実際に加算の対象となるのは、全体の約58%にあたる94万世帯にとどまる見込みです。
ー500円という金額にはどのような意味があると考えますか。
金額だけを見れば小幅な増額ですが、物価上昇が続く中で、国が生活保護基準の見直しに踏み切ったこと自体に一定の意義があると考えます。
今回の加算は2年間の特例措置として実施され、財政影響額は年間でおよそ50億円と見込まれています。今後の基準については、社会経済情勢や一般低所得世帯の消費実態を踏まえ、改めて検討が行われる予定です。
また、2027年(令和9年)度以降の改定に向けては、5年ごとに実施される生活保護基準部会での定期検証を1年前倒しで行う方針も示されています。これらを踏まえると、制度全体としては今後も状況に応じた見直しが続くとみていいでしょう。
◆橋本ひとみ(はしもと・ひとみ)
銀行勤務12年を経て、現在は複数企業の経理代行をおこなう。法人営業や富裕層向け資産運用コンサルティングの経験に加え、ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士の資格を持つ。
(まいどなニュース特約・八幡 康二)
























