なぜ大英博物館で安藤広重の展示がされているのでしょうか(ワカサトさん提供)
なぜ大英博物館で安藤広重の展示がされているのでしょうか(ワカサトさん提供)

18世紀から20世紀にかけ大英帝国の勢力を背景に膨大なコレクションを蒐集したことで知られる大英博物館。

今、SNS上で大きな注目を集めているのはそんな大英博物館のイメージについて紹介した漫画。

ロンドンのパブで日本人の主人公が現地人に「大英博物館の広重(※江戸時代の浮世絵師、歌川広重)展よかったですよ~広重の作品が一度にたくさん見れるなんて日本でもないです」と話すと、現地人から帰ってきたのは「なんで日本では展示がないの?大英博物館が盗んだから?」という言葉。

大英博物館が植民地主義の時代にかなり強引な手法でコレクションを集めたのは事実ではあるのだが…

この漫画の主人公・作者であるワカサトさん(@wakasato_)にお話を聞いた。

ーー会話のお相手はどんな方だったのでしょうか?

ワカサト:国籍まではうかがっていませんが、英語ネイティブで、日本に住んだ経験のある日本贔屓の方でした。ロンドンは人口に占めるイギリス人の割合が5割を切っており、イギリス国籍の方にも、ハーフ、インド系、ナイジェリア系といった方がたくさんおられます。この相手の方も、お名前や容貌から、中東系にルーツのある方だと推察しました。

ーー「大英博物館が盗んだから?」と聞かれたときは。

ワカサト:広重は複製された版画作品として、欧米のコレクターに蒐集されてきました。大英博物館広重展もそのようなコレクションの寄贈によって実現しました。私は広重の海外での評価や同館のキュレーション力を称賛したかったのですが、大英博物館の「略奪品」イメージが強いため、意図と違う受け取られ方をされた点にカルチャーギャップを感じました。相手の方はお酒の席での半分ジョークとして軽く言っている雰囲気でしたが、広重の背景をご存じないようでした。

ーー広重の作品が大英博物館にあることについてどのような説明をされたのでしょうか?

ワカサト:広重の作品が庶民の娯楽として大量複製・流通していたこと、それを欧米のコレクターが蒐集して価値づけを行ってきた経緯を説明しました。  また日本では西洋的な「大文字のART」概念がなかったことにも触れ、略奪品ではないことを理解してもらいたいと思いました。相手の方は「知らなかった」と驚いた様子でした。

ーー投稿に大きな反響がありました。

ワカサト:こうした話題を通じて、文化財の価値に思いをはせていただけたならうれしいです。

◇ ◇

SNSユーザー達から

「植民地時代にかっぱらった物が多いという自覚はあるのね。  浮世絵の場合は元々版画の大量生産品だから当時は国内では価値が認められてなくて、二束三文で売られたり漆器を運ぶ梱包材代わりに丸めて箱に入れられたりしてたから・・」
「ギリシャで現地ガイドが〇〇はここで発掘されましたがこの博物館にはありません。なぜ?大英博物館に持ってかれたからです。という話を3回ぐらい強調して言ってておもろかったな笑」
「イギリスで暮らしていた友人が、『大英博物館の展示は帝国主義の時代に世界中から奪いまくってきた結果である』という認識は結構イギリス国民に共有されてるよ、と言ってました。『凄いモノ』を単純に礼賛はしない彼の国の人々の批評意識がどうやって形成されてきたのか、気になるところです。」

など数々のコメントが寄せられた今回の投稿。

大英博物館の広重コレクションは来年、東京都美術館開館の100周年記念で開催される「大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱~海を越えた江戸絵画」で日本に里帰りすることが決まっている。展覧会を通じて広重の魅力が改めて多くの人に伝わるよう願いたい。

なお今回の話題を提供してくれたワカサトさんはロンドンを拠点に漫画家として活動。趣味としてエッセイ漫画をSNSに投稿しており、これまでに描きためた作品の一部を「ギリギリ イギリス日記」としてKindle Unlimitedで配信している。イギリスのお国柄が良く伝わるユニークで気付きのある作品ばかりなので、ご興味ある方はぜひご覧いただきたい。

(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)