退職を相談しただけで叱責… ※画像はイメージです(maroke/stock.adobe.com)
退職を相談しただけで叱責… ※画像はイメージです(maroke/stock.adobe.com)

入社5年目の会社員・Aさん(30代)は、業務の忙しさと人間関係のストレスから退職を考え、上司に「少し相談したいことがある」と切り出しました。Aさんが 「そろそろ転職を考えていて……」と話すと、上司の表情が一変し 「今の時期に辞めるなんて非常識だ」と強い口調で叱責されます。 

さらに「どうしても辞めたいなら代わりを探せ」と突き放されました。Aさんはその言葉にショックを受け、「辞めたいと言った自分が悪かったのかもしれない」と自責の念にかられてしまいます。

このように、退職を相談しただけなのに叱責されるという声は、SNS上でも少なくありません。では、退職を相談しただけで叱責された場合、法的に問題はあるのでしょうか。はやし総合支援事務所の林雄次さんに話を聞きました。

■退職の申し出に対して人格を否定する叱責や威圧はパワハラに該当するおそれ

ー退職の意思を伝えただけで叱責する行為に、法的な問題はありますか

労働者には「退職の自由」があり、期間の定めのない雇用であれば「申入れから2週間で契約終了」が民法で認められています。会社が不当に引き止めたり、退職の意思を理由に懲戒・不利益取扱いを行うことは、権利行使への不当な圧力とみなされます。

また、退職の申し出に対して人格を否定するような叱責や威圧がある場合は、パワーハラスメントに該当する可能性もあります。事業主には防止措置の義務があるため、問題行為といえます。

ー精神的に追い込まれるような叱責を受けた場合、どのように対応すべきでしょうか

日時・発言内容・同席者などを記録し、メールやメモで保存しておきましょう。次に、社内の相談窓口や人事部、産業医に相談します。事業主には相談体制を整える義務があります。

迷った場合は「総合労働相談コーナー」など公的機関への相談もおすすめです。

また心身の不調がある場合は、医療機関の受診や休職制度の利用も検討をしてください。診断書を取っておくと、後の証拠にもなります。

ー退職の意思を伝える際、トラブルを避けるための伝え方やタイミングはありますか

書面で退職届を提出し、控えを保管しましょう。受理を渋られる場合は、内容証明郵便で送付すると確実です。民法上は「2週間前の申出」で足りますが、就業規則で「1カ月前」と定める会社もあります。引き継ぎや有給取得を考慮して、現実的な日程を伝えましょう。

なお、退職を伝える際は上司→人事など正式な経路で行います。感情的な場面を避け、落ち着いた時間に「一身上の都合」で簡潔に伝えるのがポイントです。

ー上司からの叱責や圧力が続く場合、労働者はどのように対応すべきでしょうか

記録を続けつつ、上位者や人事部にエスカレーションします。改善されない場合は、労働局のあっせん制度など公的支援を活用しましょう。

就労継続が難しい場合は、内容証明郵便で退職届を送り、貸与物返却など引き継ぎ方法を文面で提示します。退職意思は会社に届いた時点で効力が発生します。

なお、不当な圧力で損害が生じた場合は、損害賠償請求や労災申請の可能性もあります。やり取りは書面中心に切り替え、同席者の配置や面談記録の開示を求めましょう。

◆林 雄次(はやし・ゆうじ)
600以上の資格を持つ「資格ソムリエⓇ」。社労士・行政書士・中小企業診断士など多方面に活躍し、『今すぐできる営業ノウハウ30』など、著書は50冊以上。僧侶の一面も。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)