餅よりも喉に詰まる原因になっているのはまさかの『おかゆ』 ※画像はイメージです(FineGraphics/photoAC)
餅よりも喉に詰まる原因になっているのはまさかの『おかゆ』 ※画像はイメージです(FineGraphics/photoAC)

80代のAさんは、家族の介護を受けながら自宅で生活しています。飲み込む力が弱くなっているため、毎日スプーンを使いながら自力でおかゆを食べていました。もちろん喉に詰まりやすい餅は口にしないように気をつけています。ところがある日、Aさんはいつものようにおかゆを食べていたところ、突然顔を真っ赤にして苦しそうな表情を浮かべだしたのです。家族は「喉に詰まらせた!」と気づき、慌てて背中を叩きながら救急車を呼びました。

窒息の原因といえば、餅を思い浮かべる方も多いですが、実は東京消防庁の令和5年データによると、60歳以上の窒息事故で、おかゆは餅の約1.6倍近く報告されているのです。なぜおかゆが窒息の原因になりやすいのか、注意すべき食材や対策方法について半蔵門 渡海消化器・内視鏡クリニック院長の渡海義隆さんに話を聞きました。

■食べ物はやわらかければ「安全」とは限らない

ー正月になると、「餅による窒息」が毎年のように注意喚起されていますが、実際にはおかゆなどほかの食品でも窒息が起きていると聞きます。まず、餅が危険とされる理由を教えてください。

餅は非常に粘りが強く、噛んでもなかなか細かくならずに塊のまま口の中に残ってしまうのが特徴です。高齢になると咀嚼力の低下および唾液の分泌が落ちるため、そのまま飲み込もうとして喉に詰まってしまうことがあります。特に温かい餅は弾力があり、気道に張り付きやすいので、張り付くと除去が難しく窒息してしまうことが少なくありません。

東京消防庁の統計でも、正月を中心に餅による窒息搬送が毎年多く発生しています。餅を食べるときは、小さく切り、よく噛み、ゆっくり飲み込むことが大切です。

ーおかゆのような「やわらかい食べ物」でも窒息を起こすのはなぜなのでしょうか。

おかゆは一見安全そうに思えますが、嚥下機能が低下した高齢者にとっては意外と誤嚥しやすい食べ物です。

その理由としては、おかゆは米粒と汁が混ざった半流動状であるためです。飲み込む前に喉の奥に流れ込みやすく、舌や喉の動きが低下した高齢者では気管に入りやすくなります。また主食として毎日食べる機会が多いこと、汁気が多く流動性が高いため、むせやすいことも事故件数の多さにつながっています。

日本摂食嚥下リハビリテーション学会でも「やわらかければ安全とは限らない」として、嚥下機能に合った食事形態を選ぶよう注意喚起しています。

ー餅やおかゆのほかに、高齢者が特に注意するべき食材はどんなものがありますか。

意外に肉類、パン、ご飯など、日常的な食材でも注意が必要です。薄切り肉は噛み切りにくく、塊のまま喉に入ってしまうことがあります。パンは口の中で水分を吸ってパサつきやすく、うまくまとまらずに喉に残るケースが目立ちます。

また、こんにゃくゼリーも注意が必要です。弾力が強く噛み切りにくいうえに、喉に入っても形が崩れにくいため、気管をふさぎやすく危険です。実際に、高齢者施設などで窒息事故が報告されています。

どんな食品でも、「やわらかい=安全」とは限りません。嚥下機能が低下している方では細かく刻む、とろみをつける、水分を加えるなどの工夫が必要です。

ー日ごろ高齢者が安全に食事をとるために、気をつけるべきポイントを教えてください。

姿勢と食べ方がとても大切です。背筋を伸ばし、やや顎を引いた姿勢で座ると、食べ物が気管に入りにくくなります。また、スプーンは小さめのものを使い、一口量を減らして、ゆっくり落ち着いて食べることもポイントです。それに加え、食後30分ほどは上体を起こしておくと、誤嚥性肺炎の予防にもつながります。

介助の際は、飲み込みを確認してから次のひと口を与えるようにしましょう。嚥下機能が低下している場合は、言語聴覚士などの専門家による評価を受け、嚥下調整食やとろみ剤を取り入れることも有効です。

やわらかさよりも、「その人に合った食形態」を選ぶことが何より大切です。

◆渡海義隆(とかい・よしたか)
半蔵門 渡海消化器・内視鏡クリニック院長。日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医。長年消化器治療・がん治療を専門としており、AIを用いた食道がん・胃がんの研究などに携わる。見落としを極力減らした、精度の高い内視鏡検査を得意としている。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)