防犯用の催涙スプレーの所持は違法? ※画像はイメージです(buritora/stock.adobe.com)
防犯用の催涙スプレーの所持は違法? ※画像はイメージです(buritora/stock.adobe.com)

最近、催涙スプレーに関する事件が相次いで報じられ、不安な気持ちになる人も多いでしょう。SNSでの声を調べると、「身を守るために催涙スプレーを持つべき」という意見と、「持っているだけで違法では?」という声が飛び交い、議論が続いています。

では実際に、催涙スプレーを所持したり噴射することは、違法なのでしょうか。刑事事件を多数扱ってきた元検事で弁護士の西山晴基さんに話を聞きました。

■催涙スプレーを堂々と見せて防犯用と説明できるように

-「自衛目的」で催涙スプレーを持ち歩くこと自体は、法律上問題がありますか?

一般的には、いわゆる「護身目的」だけを主張して隠して携帯するのはリスクがあります。過去には暴力団抗争の事情で所持が問題とされた裁判例もあり、軽犯罪法や凶器に関する法理が関わる可能性があるでしょう。

ですが、「防犯目的」を前面に出した所持を認めた裁判例もあります。経理業務に就く人が防犯のために携帯していたケースで、裁判所は違法としませんでした。そしてその裁判で、裁判官が「女性が夜道や痴漢被害を防ぐためなら、携帯を許容する余地がある」と述べています。

-たとえば、夜道の痴漢防止のために実際に噴射した場合、それが正当防衛になる可能性はありますか?

はい、可能性はあります。正当防衛として認められるためには、迫っている危険性と行為の必要性・相当性のバランスがポイントです。相手からの身体的危害が切迫し、逃げられない・助けを呼べない状況であれば、催涙スプレー使用が正当と評価される余地があります。

具体的には、性別・体格・場所(密室かどうか)などが厳しく判断されます。たとえば、女性が一人でエレベーターに乗り、その中で襲われそうになった場面は必要性が認められやすいです。

-それでは、過剰防衛に該当すると判断されやすいのは、どのような状況でしょうか?

過剰防衛と判断されるのは、相手の危険度を大きく越える防御手段を取った場合です。判断の観点は「自分と相手の力関係」「持っている装備の強さ」「周囲に助けを求められるか」の3点です。

たとえば、自分よりも明らかに体格の小さい相手に軽く押された程度で、催涙スプレーを噴射してしまうような場合は、「危険に対して手段が行き過ぎている」と判断され、過剰防衛とみなされる可能性があります。

-防犯グッズとして携帯を考えている人が、知っておくべき法的リスクとは?

ポイントは、催涙スプレーをもつ“正当な理由があるかどうか”です。催涙スプレーを正当な理由なく隠して持つと、軽犯罪法上問題になる可能性があります。

警察に職務質問された場合は、堂々と見せて「防犯用」と説明できるようにしましょう。「平穏な生活を送りたいという気持ちから、不安だから持っている」と伝えられるようにしておくのが安心です。「護身用」という言葉には、攻撃を想定した印象があり、誤解を招くおそれがあります。

また、防犯ブザーのように見える形で携帯すると、犯罪の抑止力にもつながります。 今後、首から下げられるタイプの催涙スプレーなどが商品化されれば、違法にはならず不審者へのけん制にもなると思います。

◆西山晴基(にしやま・はるき)弁護士 レイ法律事務所所属。芸能・エンターテインメント法務を中心に、元検事(ヤメ検)としての経験を生かして、刑事事件や医療分野など幅広く対応。DJ弁護士の一面も。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)