膝のお皿(膝蓋骨)が正常な位置から外れてしまう「膝蓋骨脱臼(通称:パテラ)」は犬に多く見られる病気。一方、猫の場合は発症するケースが稀。そのため、愛猫がパテラと診断された時、飼い主は情報の得られにくさに悩むことがある。
ベンガルのひじきちゃんと暮らす飼い主さん(@Bengai_hijiki)も、そのひとりだった。2023年3月、愛猫がパテラであると知った飼い主さんは情報量の少なさから治療方針に悩んだという。
■「運動神経が鈍い…?」 お迎え当初に感じた“些細な違和感”
小さな頃から犬や猫と暮らしていた飼い主さんは結婚後、ペット飼育可の物件に引っ越したことや、子どもたちも動物を迎えたいと言い出したため、猫を迎えようと決意した。当初は保護猫を迎えたいと考えていたが、里親になれる条件のハードルが高く、断念。
夫がペットショップのホームページで見つけたひじきちゃんに心惹かれ、家族全員で会いに行き、お迎えした。
「ひじきが来てからというもの、他愛もない毎日がハイライト。名前を呼ぶと来てくれ、お昼寝に誘ってくれるところがかわいいです」
ベンガルは、一般的な猫よりも運動量が多い。そのため、飼い主さんは成長に合わせて、キャットウォークや上下運動ができる工夫を取り入れていこうと考えていた。
ただ、お迎え当初から気になることが…。これまで実家で一緒に暮らしていた猫と比べると、ひじきちゃんは運動神経が鈍いように思えたのだ。
しかし、その鈍さは生活に支障をきたすほどではなく「高いところにジャンプできない」という程度。そのため、飼い主さんは「単に運動神経が悪いのだろう」と自分を納得させたという。
■お迎えから1年後に「膝蓋骨脱臼(パテラ)」が判明して…
異変が見られたのは、お迎えから1年ほど経った2023年2月頃。ひじきちゃんは、急に足を引きずるようになった。
症状は5秒から10秒ほどで治まり、その後は普通に走ることができていたが、飼い主さんは念のため、かかりつけの動物病院へ。レントゲン検査を受けるも、異常は見られなかった。
だが、かかりつけ医に紹介してもらった整形外科専門の動物病院を受診し、改めて触診やレントゲン検査を行ったところ、パテラが判明。手術を受けるか、温存して様子を見るかの決断を迫られた。
悩んだ末、飼い主さんは温存して様子を見ようと決断する。手術をしても100%治るとは言いがたいと医師から告げられ、臆病なひじきちゃんにとっては入院や手術自体が相当なストレスになると感じたからだ。
「本人がパテラと上手く付き合っていくこともあると聞いたのも、温存を選んだ理由のひとつです。ただ、温存する場合は年老いた時に再び症状が現れても、その時に手術できるか分からないというリスクがあることを医師からの説明で知りました」
■「温存」を選んだ後の日常と“猫のパテラ”への想い
幸いひじきちゃんはパテラと上手く付き合えているようで、その後は足を引きずる仕草が見られていない。ただ、家族はできるだけ足に負担がかからないよう、生活環境やスキンシップの取り方を見直した。
「抱っこから下ろす時は、高さと場所に気をつけるようになりました。あと、キャットタワーの下などにはマットを敷き、膝に負担がかからないようにしています」
猫のパテラは症例が少なく、治療法に悩むこともあるからこそ、愛猫にとって一番適切な治療法や対策をその都度、考えていきたい。飼い主さんはひじきちゃんのパテラを経て、そんな気づきを得たという。
「手術に踏み切らなかったことは正解なのか、この先もしかしたら後悔するかもしれない…と考える日は、正直あります。でも、ひじきにとっての最善を見つけるため、これからも普段の様子をよく観察し、些細な異変を察知していきたいです」
猫は人間に自分の希望を言葉で伝えることができない。だからこそ、一緒にたくさん遊んだり眠ったりする日常を大切にしながら、愛猫としっかり向き合い、小さな異変に気付いてほしい。
そんな飼い主さんの訴えは、猫飼いの心に刺さる。愛猫が健康でいてくれる日常は当たり前ではない。その尊い日々を守るため、私たち飼い主にはどんなことができるだろうかと、改めて自問自答したくなる。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)
























