いかつい風貌から、ときに「怖い」と誤解されることがあるブルドッグ。一般にイメージされるのは、頭が大きく鼻が短いイングリッシュブルドッグとフレンチブルドッグだろう。イングリッシュブルドッグは耳が垂れていて、フレンチブルドッグは耳が立っているのが特徴だ(以下、総称してブルドッグ)。しかし、この2犬種は、人間の助けがなければ、この世に生を受けることも成長することも難しい繊細な犬種だという。
滋賀県甲賀市で「Bandage Farm」を営む大塚美穂さんは、ブルドッグのブリーダーとして40年間にわたり200頭以上と向き合ってきた。販売を主目的とするブリーダーとは一線を画し、ドッグショーを通じて「健全な個体の保存」に心血を注ぐ大塚さんの活動から、ブルドッグの魅力を再発見するとともに、驚きの繁殖背景とブルドッグが抱える切実な課題を聞いた。
■いかつい外見に似合わずブルドッグの性格はとてもフレンドリー
その強面(コワモテ)のイメージとは裏腹に、大塚さんによると、ブルドッグはとても人懐っこくフレンドリーな性格だという。
ずんぐりした体型ゆえ、他の俊敏な犬とは違う動作がユーモラスで、ちょっと「どんくさい」ところがたまらなく可愛いとのこと。だが、ブルドッグは自然に存在した犬種ではなく、人工的に生み出された犬種のため、繁殖の様態が他の犬種とは根本的に異なるのだそうだ。
「ブルドッグは、闘犬用の犬種として人がつくりだしたのです。ずんぐりした特殊な体型のため交尾が難しく、人が交尾を手伝っていた時代もあります」
人工授精で妊娠させるのだが、胎児が育っても、頭部が大きく産道を通ることが難しいので自然分娩が難しい。稀に自然分娩の例があるものの、母体と子犬のリスクを回避するため、帝王切開での出産が基本とのこと。
産後も、母犬に育児を任せきりにすることはできない。
「母犬に悪気はないのですが、重い体で子犬を圧死させてしまう危険があるんですよ」
大塚さんは子犬を母犬から離して管理し、3時間おきに母犬のもとへ連れて行って授乳させる。母乳が足りなければ人が哺乳することもあり、文字通り寝食を忘れて命を支えるのだ。
「それだけ手がかかるからこそ、自分の子供のように愛おしくなります」
このように人が献身的に関わらないと育つことができないため、ブルドッグはとても人懐っこい性格になるのだという。
■人が生み出してしまった犬種だからこそ責任をもって守る
ブルドッグは闘犬に特化した種としてつくられたため、近年では「不自然な命」として繁殖を制限しようとする国があるという。2023年10月18日ノルウェーの最高裁判所は病弱で近親交配が蔓延しているキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルという犬種の繁殖を事実上禁止。併せて、イングリッシュブルドッグの繁殖は新たな枠組みに適合する必要があり、その枠組みから外れた繁殖は違法との判決を下した。
「そういうわけで、世界的に見るとブルドッグの繁殖がしんどい状態になってきているんです。もしかすると、いずれいなくなってしまう恐れもあります。でも、残していける状態にしたい」
だからこそ大塚氏さんは、「ブルドッグらしい」堂々とした個体を知ってもらい、種の保存を図るため積極的にドッグショーに参加している。
大塚さんは、ドッグショーに臨む気持ちを「一勝より一生」と言い表す。これは「ドッグショーでの勝利より、その子が全うする一生を重んじる」ということ。
ブリーダーではあるが収益は追求せず、会社員の夫とともに働きながらブルドッグの魅力を伝える活動を続けているのだ。月々20万円もかかるフード代や全国を車で回る遠征費用は、すべてこの愛すべき犬種を絶やさないための投資である。
「見た目の印象だけで怖がったりせず、実際に触れてその温かさを感じてほしいです」
人間がつくり出してしまった犬種だからこそ、人間が責任をもって守り、そして愛さなければならないという。ブルドッグという唯一無二の存在を次世代へ繋ぐための活動は、今日も静かに続いている。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)























