川で拾った犬の名はケン(夢窓かずみさん提供)
川で拾った犬の名はケン(夢窓かずみさん提供)

大切な存在との出会いが、止まっていた時間を動かしてくれることがあります。夢窓かずみさんの作品『ケンちゃんおしゃべり犬の物語』は、拾った犬と飼い主の話が話題となっています。

物語は、主人公がある日、川沿いで1匹の犬を拾ったところから始まります。その犬はトイレや片付けを難なくこなし、とても賢い様子を見せます。主人公は「賢(ケン)」と名付け、大切に育てることにしました。

半年が経つ頃には、洗濯物を干し、掃除機をかけ、牛乳をコップに注いでソファに座って飲むほどに成長します。あまりにも人間のように振る舞うケンに、主人公は次第に不安を覚えるようになるのでした。

そしてさらに1カ月後、ケンはついに言葉を話すようになり、主人公を「ヌシカイ」と呼ぶようになります。知能の成長は止まる気配を見せません。それでも二人での日常は、楽しいものでした。

自分の身長を測ってみたり、鏡に映る姿に驚いたりと、ケンはさまざまな表情を見せます。散歩の時間になると「お手」といって手を繋いで出かけ、他の犬が可愛がられていると嫉妬するのに、自分が褒められると照れるケンなのでした。

そんな穏やかな日々の中、ある日ふたりは土手沿いを散歩します。そこは主人公がケンを拾った場所でした。月日が流れたことを振り返るなかで、ケンの過去が明らかになります。

ケンはかつて別の人に飼われていましたが、捨てられてしまった経験がありました。しかもケンを置いて立ち去る飼い主を追いかけた末、その飼い主に川へ投げ捨てられてしまったのです。

一方、主人公もまた、事故で妻子を亡くし、1人きりになっていました。生きる気力を失い、川へ足を向けたそのとき、溺れていたケンと出会います。ふたりはそれぞれ深い喪失を抱えながら、同じ場所で出会っていたのでした。

夕日を見ながら過去を思い出すふたりでしたが、ケンが「腹へった」と口にします。その一言に、主人公は思わず笑顔になり、ふたりは手をつなぎ家へと帰っていくのでした。

心に大きな傷を負ったふたりが癒されていく同作について、作者の夢窓かずみさんに詳しく話を聞きました。

■「笑い」と「シリアス」の緩急がこころに残る...

ーふたりの過去は、書き始めた当初から構想を練っていたのでしょうか?

最初に二人が出会うシーンと背景が頭に浮かび、それを描きたいと思いストーリーを構築しました。ただ、シリアスシーンが序盤から続くと読者が身構えてしまうかなと思い、日常を最初に描くことで入りやすく、かつ後の過去シーンとの緩急を演出できるかも?と思いながら制作いたしました。

ー二足歩行ができるようになったり喋れるようになったりなど、犬としては少しありえない設定をあえて入れたのには理由がありますか?

描きたいシーンがまず最初に来て、そこから犬と人間の日常を描こうと思ったのですが、それだと少しエピソードが弱くなると感じました。そこで、二足歩行・喋れる犬という特徴を加えたところ、エピソードが進みやすかったのでこの設定で行くことにしました。

ーケンが、飼い主のことを「ヌシカイ」と呼びますが、この名前はどのように思い付いたのでしょうか?

芸人のさまぁ~ずさんが好きで、さまぁ~ずさんがよく業界用語(し~す~/おいに~)などを多用されており、それに影響されて飼い主→ヌシカイにしました。

ー作品づくりで、何か意識されていることや気をつけている点はありますか?

作成する際に心がけているのは、「入りやすさ」と「サプライズ」です。今作だとケンちゃんが犬のような、人間のような言動をすることでちょっと笑える、というような、コメディベースで読み始めやすい導入を意識しました。

また、サプライズの有無で読者の心に残る度合いが違うと考えたので、後半は過去のシリアス部分を提示することで、読んでくれた方が何か感じてもらえたらうれしいなと思いながら作成しました。

(海川 まこと/漫画収集家)