若くても介護保険が利用できる特定疾患とは?※イメージ画像(kazoka303030/stock.adobe.com)
若くても介護保険が利用できる特定疾患とは?※イメージ画像(kazoka303030/stock.adobe.com)

山口浩一さん(43歳・仮名)は、大手メーカーの管理職として多忙な日々を送っていましたが、徐々に仕事上のミスが目立ち始め、精密検査の結果、若年性アルツハイマー型認知症と診断されました。住宅ローンや子供の教育費を抱える中、「介護保険は65歳から」という思い込みから、高額な自費サービスや家族の負担増に絶望していました。

しかし、山口さんのようなケースでも、「特定疾病」に該当すれば40代から介護保険制度を利用することが可能です。40~64歳のための介護保険の利用については、家計の破綻を防ぐためにも知っておくと良いでしょう。

■40歳から介護保険が使える「16種類の特定疾病」とは

通常、介護保険のサービスを受けられるのは「第1号被保険者」と呼ばれる65歳以上の方です。しかし、40歳から64歳の方(第2号被保険者)であっても、加齢に伴う以下の「16種類の特定疾病」が原因で介護が必要になった場合には、介護保険を利用したサービスを受けることが可能です。特定疾病には、一部条件もありますが、以下のようなものが含まれます。

・がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき、治癒の見込みがないと判断したものに限る)
・関節リウマチ
・筋萎縮性側索硬化症(ALS)
・後縦靱帯骨化症
・骨折を伴う骨粗鬆症
・初老期における認知症(若年性アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症など)
・進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病
・脊髄小脳変性症
・脊柱管狭窄症
・早老症(ウェルナー症候群など)
・多系統萎縮症
・糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症
・脳血管疾患(脳梗塞、脳出血など)
・閉塞性動脈硬化症
・慢性閉塞性肺疾患(肺気腫、慢性気管支炎など)
・両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

■健康保険と介護保険の決定的な違い

「健康保険があるから大丈夫」という考えは、長期的な在宅生活においては危険です。健康保険と介護保険では、サポートの範囲と目的が根本的に異なります。

例えば、歩行困難になった際、日常的な生活を支援するための車椅子のレンタル費用は、健康保険では原則対象外です。全額自己負担(月額数千円~1万円以上)となりますが、介護保険であれば原則1割(所得により2~3割)の負担で済みます。

▽健康保険
目的:病気や怪我の「治療」
リハビリ:急性期の機能回復が中心
福祉用具:原則として全額負担
住宅改修:対象外

▽介護保険
目的:自立した「日常生活」の支援
リハビリ:生活機能の維持・向上が中心
福祉用具:レンタル・購入費の1~3割自己負担
住宅改修:上限20万円の補助

■申請からサービス利用までのフロー

「特定疾病」に該当する場合、できるだけ早くお住まいの市区町村窓口(介護保険課や地域包括支援センター)で要介護認定の申請を行う必要があります。なお、ケアプラン作成後は、介護サービスを提供する事業所と契約し、サービス開始となります。

▽1.申請
窓口に申請書、介護保険被保険者証(40~64歳は健康保険証)、主治医の情報(氏名・医療機関名)を提出します。

▽2.訪問調査
市区町村の調査員が自宅を訪問し、本人の心身の状況を聞き取り調査します。

▽3.主治医意見書
市区町村が主治医に対し、病気の状態や介護の必要性等についての意見書を依頼します。

▽4.審査・判定
「介護認定審査会」にて、コンピュータ判定と主治医意見書を元に、要介護度(要支援1~2、要介護1~5)を決定します。

▽5.結果通知
原則として申請から30日以内に結果が郵送されます。

▽6.ケアプラン作成
ケアマネジャーと相談し、どのようなサービスをどれくらい利用するか計画を立てます。

■自己負担額のシミュレーション~自費と保険適用~

具体的に、どの程度の金銭的メリットがあるのでしょうか。要介護2の認定を受けた場合を想定し、1カ月あたりの負担額を比較します。

▽週2回の訪問介護と車椅子レンタルを利用
 訪問介護(身体介護):週2回(月8回)、60分/回
 福祉用具:車椅子、電動ベッドのレンタル
 ケアマネジメント:ケアプランの作成

▽全額自己負担の場合(自費)
 訪問介護:約4万5000円
 福祉用具:約2万円
 ケアプラン作成:約1万円
 合計:約7万5000円

▽介護保険適用の場合(1割自己負担)
 訪問介護:約4500円
 福祉用具:約2000円
 ケアプラン作成:0円(全額保険給付)
 合計:約6500円

1カ月あたりの差額は、約6万8500円となり、介護保険を利用すると年間で、約80万円以上の節約となります。さらに、「高額介護サービス費」という制度があり、所得に応じた世帯合算の月額自己負担額に上限が設定されているため、重度の介護が必要になった場合でも家計へのダメージを最小限に抑えられます。

■早期認定がもたらす「金銭的・精神的メリット」

早期に要介護認定を受ける最大のメリットは、「資産の取り崩しを防ぎ、家族の離職リスクを低減できる」点にあります。

40~50代は家庭において所得を得るための、中心的な存在です。介護保険によるプロの介入(デイサービスやショートステイ)があれば、家族が介護のために仕事を辞める必要がなくなり、世帯収入を維持できます。

また、将来を見越して手すりの設置や段差解消を行う際、介護保険を使えば所得に応じて最大で14~18万円(支給限度額20万円の7~9割)が支給されます。自費で行うのとでは雲泥の差です。

■早めの対応が将来を左右する

山口さんのご家族は、すぐに地域包括支援センターに相談し、特定疾病(初老期における認知症)として要介護2の認定を受けました。

仕事を辞めることにはなりましたが、現在は週3回のデイサービスを利用し、そこで脳トレやリハビリに励むことで進行を緩やかにしつつ、家族との時間も確保できるようになりました。

介護保険を活用することで月々の支払いは1万円程度に抑えられたことに加え、奥様も正社員として企業で働くことが決まり、心配していた住宅ローンの支払いも継続できています。

「介護保険は高齢者のもの」という先入観を捨て、制度を正しく理解し活用することで、働き盛りの世代が予期せぬ困難に直面しても、自分らしい生活と家族の未来を守ることができるのです。

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。

(まいどなニュース/もくもくライターズ)