月賦で買ったワープロに初めて打ち込んだ文字「津田寛治 25歳 無職」
それから35年。今では「困った時の津田寛治」と評される名バイプレイヤーに。
■還暦の30歳
津田寛治(60)が俳優・津田寛治を演じるという摩訶不思議な主演映画『津田寛治に撮休はない』が3月28日から公開される。津田は「自分の名前がタイトルに冠されて、自分役を演じるなんて。俳優人生でこんな事が起こる人はなかなかいないはず」と驚いている。
映画に魅了され、俳優になりたい一心で福井県の高校を中退。あてもなく単身上京した。金もなく仕事にも恵まれず、自嘲を込めて「無職」との文字を打ち込んだ若き潜伏の日々。北野武監督の『ソナチネ』(1993年)で俳優デビューし、中居正広の相手役を務めた『模倣犯』(2002年)で一躍注目を浴びた。以降テレビや映画に引っ張りだこで、気づいたらもう還暦。でも輝いた瞳を向けて目の前に座る津田に、還暦の赤いちゃんちゃんこは似合わない。
「周りの人から『還暦だね』とお祝いされるときは、無理矢理自分を還暦だと思わせているくらいで、正直なところ実感はありません。気持ち的には30歳から変わらない。おっと若く言い過ぎかな?ハハハ」
■常にない自信
2025年12月、自身初のドイツ映画主演作『The Frog and the Water』で最優秀男優賞を受賞。エストニアのタリン・ブラックナイト映画祭で日本人が受賞するのは初の快挙なのだという。
2025年に放送・公開された出演作は20本を超える。評価も年輪も重ねて増々忙しくなりそうだが、浮足立たないのが苦労人の良いところだ。
「コンスタントにお仕事を頂けている現状は“本当にありがたい!”の一言です。ただ僕としては、自分に需要がある確たる理由が考えても浮かんでこないので常に自信がありません。いただくお仕事の一つ一つは、今までの自分の歩みは間違っていなかったという応援として受け取り、引き続き新しい事にチャレンジしながら突き詰めていきたいです」
近年の出演作『さよなら ほやマン』(2023年)『君の忘れ方』(2025年)等々でみせた津田の表現の深みには目を見張るものがある。キャラクターを演じるのではなく、演技という概念を脱ぎ捨てて登場人物そのものに同化するドキュメント性。俳優・津田寛治を津田自身に演じさせた『津田寛治に撮休はない』の作り手の狙いも理解できる。
■物語の中で生きたい
パターンに陥らない演技の数々を褒めると、津田は真剣な眼差しを向けてこう言う。
「映画とは色々な人たちとの共同作業によって生まれる総合芸術。僕一人で完結するものではありません。上手くいったと思っても、次の作品ではダウンすることもあるわけで。いつまで経っても完成形には絶対にならない。俳優として守りに入らないのは当然です」
「津田寛治 25歳 無職」との文字を打ち込んだときの感慨が、今は少しだけ変わってきている。
「無職である事を恥じ、何者でもない事が不安で仕方がなかった当時の僕。30代前半まで俳優として飯を食うことが出来ませんでした。でも今は何者でもなかった事の素晴らしさを感じます。これは俳優だから感じるのかもしれませんが、何かにカテゴライズされるのってメッチャ寂しい。いつまでも何者でもない状態をキープしたい。だから“気持ち的には30歳”なんて言っちゃうのかも」
新しい役を与えられるたびに「演じるのではなく物語の中に生きるのだ」と自分に言い聞かせている。
「小さい頃に映画館のスクリーンを無我夢中で見つめていたのと同じ感覚です。スクリーンの中には広大な世界があって物語が広がっている。そこに入る、そこで生きる。それこそが俳優業の一番の醍醐味だと思うからです」
そう語る津田は還暦でも30歳でもない。純粋無垢な映画好きの少年そのものだった。
(まいどなニュース特約・石井 隼人)
























