住まいについて悩む女性※画像はイメージです(siro46/stock.adobe.com)
住まいについて悩む女性※画像はイメージです(siro46/stock.adobe.com)

都内の賃貸マンションで一人暮らしをしている54歳の会社員、泉谷さん(仮名)。事務職として働きながら、将来受け取る年金とわずかな貯蓄で老後の生活設計を考える日々を送っています。両親はすでに他界しており、兄弟も遠方で暮らしています。月収は手取りで約18万円、家賃は7万5000円と収入の40%以上を占めています。

最近、賃貸契約の更新時期が近づき、不動産会社から「次回の更新は難しいかもしれない」という話がありました。老人ホームは費用が高く、公営住宅は抽選倍率が非常に高い。持ち家もない泉谷さんは、「住宅確保要配慮者」(何らかの理由により入居を断られる、あるいは物件探しが困難な人々のこと)として将来の住まいに大きな不安を抱えるようになりました。

高齢化が進む日本では、泉谷さんのように住まいの確保に困難を抱える人が増えています。しかし老後の住まいは「老人ホーム」や「公営住宅」だけではありません。国が整備を進める住宅セーフティネット制度を活用すれば、見守りサービスや家賃補助を受けながら民間賃貸住宅で安心して暮らせる選択肢が広がっています。

■広がる「住宅確保要配慮者」と賃貸入居の壁

高齢者や低所得者が賃貸住宅を借りにくい背景には、貸主側の懸念があります。国土交通省の調査によれば、オーナーが高齢者の入居を躊躇する理由として「室内での死亡事故への不安」「家賃滞納のリスク」が挙げられています。これは単なる偏見ではなく、実際に孤独死や残置物の処理、緊急連絡先の不在といった問題が発生した際、貸主は大きな負担を強いられるためです。

住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律、いわゆる住宅セーフティネット法では、住まいの確保が困難な人々を「住宅確保要配慮者」として定義しています。高齢者(65歳以上)、月収15万8000円以下の低所得者(ただし金額の基準は各自治体による)、障害者、子育て世帯、その他各自治体の条例で定める人々などが該当します。

単身高齢者世帯は2020年の約738万世帯から2030年には約900万世帯に増加すると予測されており、賃貸住宅への居住ニーズは今後ますます高まります。こうした状況を受けて2017年に住宅セーフティネット制度が施行され、現在全国で約94万戸が登録されています。しかし要配慮者の約8割が入居する家賃5万円未満の物件は全国で19%にとどまり、実際のニーズとの間には大きなギャップがあります。

■知っておきたい住宅セーフティネット制度の活用法

▼セーフティネット住宅と家賃補助

セーフティネット住宅とは、住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅として都道府県等に登録された住宅です。国が運営する「セーフティネット住宅情報提供システム」で検索できます。

低所得者が入居する場合、家賃低廉化補助制度があります。貸主が通常より家賃を低く設定した際、その差額を物件のオーナーに対し国と地方公共団体が補助するものです。補助制度の実施状況や補助額・期間は自治体によって異なりますが、東京都の豊島区や杉並区では月額上限4万円、補助期間原則10年間となっています。

※これはあくまで一例であり、全国一律の数字ではありません。実際に利用する場合は、各自治体の窓口で詳細を確認する必要があります。

▼居住サポート住宅の仕組み

2025年10月から導入された居住サポート住宅は、見守りサービスが付いた賃貸住宅です。人感センサーなどのICT機器(インターネットなどを使って、離れた場所と情報をやり取りできる機器)による安否確認と、社会福祉法人やNPO法人などの居住支援法人による定期訪問が組み合わされており、入居者の異変を早期に発見できます。

居住支援法人は必要に応じて医療、介護、自立支援などの福祉サービスへのつなぎ役も担います。定期訪問時に生活や心身の状況が不安定になったことを把握した場合、地域包括支援センターや医療機関と連携して適切な支援につなげることができます。

▼費用と申請の手順

家賃低廉化補助が適用された物件に入居する場合、東京都内で物件本来の家賃が8万円(月額)であれば、補助4万円(月額)が物件オーナーに支払われ、入居者が実際に支払う家賃は4万円(月額)となります。これに共益費・管理費が約5000円~1万円(月額)、光熱費が約1万円~1万5000円(月額)加わり、月間の住居費は約5万5000円~6万5000円程度となります。家賃債務保証料は入居時に約2万円~4万円ですが、最大6万円の補助があります。

見守りサービスの費用は物件によって異なり、人感センサー付き物件で月額1000円~5000円程度、対面型訪問サービス付き物件で月額5000円~1万円程度(訪問回数による)が相場です。

セーフティネット住宅を探すには「セーフティネット住宅情報提供システム」で検索し、居住支援法人や居住支援協議会に相談します。家賃低廉化補助を受けたい場合は入居前に自治体への入居資格確認申請が必要です。申請には収入証明書、市税等納税証明書、住民票などが求められます。自治体によって必要書類や手続きが異なるため、事前に確認しましょう。

◇  ◇  

冒頭に登場した泉谷さんは、居住支援法人の相談窓口を訪れ、家賃低廉化補助のある登録住宅を紹介してもらいました。見守りサービスも付いており、何かあれば居住支援法人のスタッフが駆けつけてくれる安心感があります。月々の支払いは以前の物件とほぼ変わらず、むしろ定期的な声かけがあることで孤独感も和らぎました。

住まいの不安は決して個人の努力不足ではなく、社会の仕組みが追いついていないことに起因します。住宅セーフティネット制度は、その「壁」を「階段」に変えるための制度です。50代から準備を始めれば選択肢はまだ十分にあります。

制度の詳細や補助の有無は地域によって異なるため、お住まいの市区町村の住宅課、福祉課、または居住支援協議会、居住支援法人に問い合わせることをおすすめします。「老後の住まいをどうしよう」と漠然と不安を抱えるのではなく、今できる情報収集と相談から始めてみてください。準備に「早すぎる」ということはありません。「動こうかな」と思った今が、最初の一歩を踏み出すタイミングではないでしょうか。

【出典】
・国土交通省「住宅セーフティネット制度の概要」

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)
社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士、身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極性2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。

(まいどなニュース/もくもくライターズ)