仕事帰りに駅へと急いでいた30代の男性会社員のAさんは、路上でおこなわれていたテレビ番組のロケ現場に遭遇し、不快な思いをすることになりました。歩道の先に撮影クルーが見えたかと思うと、スタッフの1人が立ちはだかり、強い口調で「今は通らないでください!」と通行を遮ったのです。Aさんは急いでいる旨を伝えましたが、スタッフは無言で威圧するように進路をブロックし続け、数分間の足止めを余儀なくされました。
SNS上でも、こうした強引な制止に対する不満の声は絶えません。多くの人はスタッフに言われれば従わなければならないと思い込んでいますが、果たして彼らに通行人を強制的に止める法的権利はあるのでしょうか。元警察官で、現在は警察官志望者向けオンラインスクールを運営するやまよしさんに話を聞きました。
■あくまで「協力」通行人に従う義務はなし
ードラマ等の撮影のために出す『道路使用許可』は、一般人の通行を完全に遮断することまで許可しているのでしょうか?
いいえ、許可の範囲を超えています。警察が発行する「道路使用許可」とは、道路の本来の目的以外(撮影など)で一時的に使用することを認めるものですが、それは「一般市民の通行を妨げないこと」が大前提です。
撮影のために道路を「占有」することは認められますが、それはあくまで機材を置いたりスタッフが配置されたりすることを指します。公共の福祉に反して、一般市民の通行権を完全に奪うような許可を出すことは通常ありません。
許可条件には「一般交通に支障を及ぼさないこと」「歩行者の安全を第一に確保すること」といった遵守事項が課せられています。
ー撮影スタッフが行う通行の制止には、警察官が行う交通整理のような法的強制力はあるのでしょうか?
一切ありません。交通整理の権限を持つのは、警察官や公安委員会の認定を受けた交通誘導警備員のみです。イベント等で配置される警備員も一定の誘導を行いますが、それも法的な強制力(従わないと罰則があるもの)ではありません。
ましてや、民間の放送局や制作会社のスタッフには、他人の通行を制限する法的根拠はありません。彼らが手を広げて立ちはだかる行為は、警察の目から見れば「通行人の方々に、撮影への協力をお願いしている姿」に過ぎず、通行人がそれに応じる義務があるわけではありません。
ーこれまでにトラブルになったケースはありますか?
現場スタッフが撮影を優先するあまり、通行人への配慮を欠くケースは非常に問題視されています。警察には「道路を私物化している」「ガラが悪い」といった苦情が寄せられることもあります。
警察側は撮影許可を出す際、ロケ隊に対し「通行人を最優先にし、あくまで柔軟な誘導を行うこと」を強く指導しています。しかし、現場がヒートアップし、通行の自由を軽視した結果としてトラブルが顕在化しているのが実情です。
許可を受けている側(ロケ隊)の謙虚さと、通行する側の寛容さ、現場での双方のコミュニケーションがトラブルの未然防止につながります。
◆元警察官やまよし 元警察官で、現職時代は主に交番や刑事として勤務。
現在は、その経験を活かし警察官志望者向け教室「やまよし教場オンラインスクール」(面接対策など)を運営。7年間で5,000人以上をサポートし(2026年1月現在)、全都道府県警察へ合格者を輩出している。主にYouTubeなどでの情報発信のほか、メディア出演や取材協力などもおこなっている。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)























