神戸市須磨区の千歳地区は、JR新長田駅北東にある。震災で、ほぼ全域が焼失した。街づくり案を検討した住民は十二月二十五日、市区画整理部を訪れた。
「これが住民の総意です」。役員が内田恒・区画整理部長に手渡した要求書は、都市計画決定した一・三ヘクタールの防災公園を、三カ所に分散するとしていた。「大規模公園はコミュニティーを分断してしまう」との訴えに、内田部長は「検討課題だ」とだけ答えた。
市の復興区画整理、都市再開発で、一ヘクタール以上の公園は、同地区とJR六甲道駅の南北、JR新長田駅南北の五地区ある。公園の規模が焦点の一つだ。
市が一ヘクタール以上にこだわるのは、防災機能とともに、国の補助金である。
都市計画上の公園は二千五百平方メートル以下の街区公園と一ヘクタール以上の近隣公園に分類される。いずれも用地買収費の三分の一を国が補助するが、面積要件を満たすことが前提だ。
緩和を求める市に、建設省公園緑地課は「具体的要望には、柔軟に対処する」としながらも「基準は基準」と話す。果たして緩和はできるのか。市側は言う。
「二千五百平方メートルでは、防災機能には足りない。だが、一ヘクタールまで、その間は補助がない。国がはっきりしないことには、住民にもこう変えるとは言えない」
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震災後、地元自治体の財政は急激に悪化した。負担軽減で最も効果的なのは、国の補助金、そして補助率のかさ上げだ。
激甚災害法に指定され、復旧事業の補助率は、自動的に七・九割まで上げられた。だが、復興に制度の裏づけはなく、壁は厚い。
再三の要望に、与党復興プロジェクトの渡海紀三朗・さきがけ院内幹事は「実は取ったはずだ」とも言う。二次補正で補助対象の道路幅は八メートルから六メートルに緩められた。事業費の半分は地方負担。従来はその三割までしか借金できなかったが、九割まで認められた。元利償還も八割を国の交付税で肩代わりする。
しかし、補助率は動かなかった。
「補助金制度は霞が関全体の問題。特例が全国に波及するのを恐れている」と建設省出身の溜水義久県副知事は話す。行革の中で、事業ごとにばらばらの補助率は三年前、原則二分の一に整理された。「ようやく押さえ込んだのに、ということだろう。再び風穴があくのではと考えている」
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二十二日、政府の第三者機関、地方分権推進委員会(諸井虔委員長)は、「機関委任事務」の改革試案を発表した。
諸井委員長は「今の自治体は国の補助金が欲しいと口を開けている状況」と指摘、「国と地方の権限を議論、補助金のあり方を見直し、地方税財源の問題にも踏み込みたい」と、来年三月の中間報告、秋の勧告に向けた考えを示した。
国の財政再建の課題に取り組む財政制度審議会小委員会は、地方財政の在り方もそ上に乗せる。
石弘光委員長(一橋大教授)は「欧米先進国に比べ、日本は国が地方にカネを配るパイプが太い」と指摘する。
復興はこの一年、現行制度の枠内で苦闘してきた。国のさじ加減の補助制度と硬直化がまた、道路や公園などの事業を進めるうえで、自治体の姿勢を固くした。住民との対立を生んだ。
国レベルでも出始めた改革の芽は、開花するのだろうか。「必要なのはトップダウンだ」。石委員長は、強い口調で話した。
1995/12/31