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(11)被災者に消えぬ「なぜ」 震災の打撃にリストラ追い打ち
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 午前三時。しんと冷える神戸市長田区の住宅街にタクシーが止まった。ユニホームに防寒着姿の女性二人が、寝静まった民家に消えた。

 同市が、昨年十一月から始めた二十四時間巡回型ホームヘルプサービス。トイレ介護、床ずれ防止の体位変換など、深夜も、未明も、彼女らが訪問介護する。家族の負担を少しでも軽減しようという試みだ。

 国と市は、特養を経営する社会福祉法人に、寮母の人件費を補助し、巡回のローテーションを組む。震災後、被災地の福祉ニーズは急増した。市は福祉復興プランを推進するが、担い手はいずれも民間である。

 市の行政改革を検討していた行財政調査委員会(委員長・伊賀隆流通科学大教授)は昨年九月、答申で今後の指針に民活導入を挙げた。市が施設を建て、あとを民間に任せる「公設民営」、財政支援のみの「民設民営」、福祉の民間委託は一気に加速する。

 「だが」と、巡回型サービスを受託する先の福祉法人関係者は漏らす。「市も国の基準以上に補助金を上乗せしているが、実際は回らない。自己負担がどれだけ増え、どう対応するか。試行段階だ」

    ◆

 市は昨年末、市会総務財政委員会に、事業見直しのほか、六局を廃止し、百ポストを削減する行財政改善緊急三カ年計画を報告した。その席でも議員と市当局の間で、厳しいやり取りがあった。

 「震災で人手はますます必要なはずだ。希望退職や削減は逆行ではないか」

 「身を切るような努力をしなければ、国の理解と財政支援は得られない」

 市の職員定数は一万九千八百九十四人。外郭団体を含め二万千六百九十六人に上る。市は、削減の目標を「三年で五百人。負担軽減は約五十億円」と発表、希望退職募集も始まった。

 市の試算では、復興に伴う十年間の財源不足は六千八百億円。しかも人件、物件費の伸びをゼロと見積もってである。

 「うち三千億は、やりくりでなんとかしたい。残りは、支援をお願いしたい」。市は自治省などに対し、こう説明してきた。だが、支援はまだ一部にすぎない。「危機は目前」とも財政当局はいう。

 国の監督下に置かれる赤字再建団体転落の危険ラインは、基準財政規模の二割に当たる約七百億円の赤字。試算では、行革最終年の九八年度の財源不足は二千五百億円。資産売却、基金取り崩しなどを行うにしても、転落すれば、国基準を超す独自施策はできない。

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 三カ年計画で挙がった事業見直しでも、市は表現のトーンに差をつけた。

 敬老祝金=支給内容の見直し
 敬老優待パス=今後の在り方の継続検討
 独居高齢者らの緊急通用システム・ケアライン119=受益者負担導入

 住宅など復興事業優先で、震災前に計画された平和記念館、御影公会堂再整備などは凍結である。

 市幹部は「被災者の再建のために復興のスピードを上げる必要がある。国の支援もいつまで続くかわからない。そうなると、独自施策を切るしか方法がない」としたうえで、ジレンマを打ち明ける。「市民の協力が欠かせないこの時期に、反発が避けられない施策を取らざるを得ないとは」

 震災の打撃に、リストラが襲う。「天災なのになぜ」という問いは、被災者にも、自治体にも、消えない。

1996/1/8
 

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